"濁流の中のSOS" 第2話
「お母さん、もがかないで」
元から面が消えた。私は反射に凛の腕をつかんだが、そのせいで娘まで緒に体を崩した。の空との川が界のでひっくり返り、次の瞬、全を叩きつけるようなたさが襲ってきた。
面に落ちた衝撃で肺の空気が気に押しされた。をけた途端、が喉へ入り込み、の奥まで焼けるように痛んだ。もも分からない。濡れたパーカーとジーンズは瞬でくなり、流が腰や脚をつかんで流へ引きずっていった。
夫に突き落とされた。
そう理解したのは、何度目かに顔が面へただった。
「凛!」
叫んだ直、きな波が顔を覆った。さっきまで腕に触れていた娘の触がない。私は恐怖に負け、岸へ向かおうと必にをかした。泳がなければ。凛を探さなければ。ここで止まったら沈む。ので同じ言葉が繰り返され、体だけが無秩序に暴れていた。
けれど流れはかった。へむどころか、力を使えば使うほど呼吸が乱れた。をみ、咳き込み、また沈む。肺が鳴をげ、腕から力が抜けていく。このまま数分ももたない。そうった、の首を何かがくつかんだ。
私は反射に振り払おうとした。しかしそのさなはれなかった。
「お母さん!」
のから顔をしたのは凛だった。
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髪を顔へ張りつかせ、咳き込みながら、それでも私の首を握っていた。私は娘を引き寄せようと再び腕をかした。
「凛、岸へ――」
「もがかないで!」
凛が叫んだ。
「お母さん、もがかないで! 向いて!」
が分からなかった。何もしなければ沈む。そうい、私はさらに腕をかしかけた。すると凛の指がい込むほどく私の首を握った。
「学でやったの! のまま落ちた、無理に泳いだらだめ!」
その言葉で、私はようやくいした。着のままへ落ちたは、むやみに泳いで体力を使い切らず、まず呼吸を確保する。子どもの難事故を防ぐための授業で聞いたことがあった。けれど実際にが迫った瞬、私はその識を完全に失っていた。
私は凛の言う通り、体を仰向けにしようとした。を吸ったが邪魔をして完全にはを向けない。それでも顎をげ、力を抜き、流れに逆らうのをやめた。すると議なことに、さっきまで沈み続けていた体が、面くでわずかに定した。
「息して。お母さん、息だけして」
凛の声は震えていた。それでも私より静だった。
私はきく息を吸った。空気が肺へ入る。それだけで、識のにしだけ余が戻ってきた。隣を見ると、凛も顎をげ、面ぎりぎりに顔をしている。歳の娘が、自分も恐ろしいはずなのに、必に私を落ち着かせていた。
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「流れのいところ、探すの」
私たちはをつないだまま流された。どれだけの距か分からない。数メートルなのか、もっといのか。の覚も消えていた。ただ、川の央からしずつへ押しされていることだけは分かった。
「お母さん、あそこ!」
凛が方を指さした。川岸くに、根元から倒れたきなが面へ張りしていた。幹と枝が流れを受け、そのだけのきがわずかにくなっている。
「あれをつかむ!」
成功する保証はなかった。枝に巻き込まれれば、かえってへ引きずられるかもしれない。それでも、ほかに止まる所は見当たらなかった。
倒が猛烈な速さでづいた。
「今!」
凛が叫んだ。
私はを伸ばした。体が幹へ激突し、胸にい痛みがる。それでもをさなかった。凛は別の太い枝へ両腕でしがみつき、私はで娘の着をつかみ、で枝を握った。
流れが私たちの体を引き剥がそうとした。肩が抜けるように痛み、のひらの皮膚が削れた。それでもさなかった。
しずつ、凛が幹へをかけた。
「お母さん、こっち!」
娘が私の襟を引いた。私は最の力を使って体をのへ寄せた。半はまだに浸かっていたが、もう流へ流されてはいなかった。
で倒へしがみついたまま、荒い息を吐いた。
きている。
その実が戻った途端、体の震えが止まらなくなった。
けれど恐怖は終わっていなかった。
私は流のを見げた。
そこにあるはずのが、消えていた。