"「施設へ行け」と家を追われた七十五歳、亡き妻の山で見つけた宝" 第18話
満の桜と、無垢の祈り
の終わり。標のい信州のあいに、遅い、だが目も綾なが爆発するように訪れた。 麓の町ではとっくに葉桜となっていたが、この集落では、肌を埋め尽くすヤマザクラとコブシのが斉に満を迎えていた。 集落の最段にある古い社『神社』の境内。 齢百を超える見事な本桜が、青空に向かっての枝をきく広げ、が吹くたびにのような吹をらせていた。
この、神社の境内で、翔太と由の結婚式が執りわれていた。 都内の名ホテルや聖堂での挙式も選べたはずのだったが、翔太と由は迷うことなく、このさなの神社を式に選んだのだ。 『じいちゃんとばあちゃんが命を吹き込んだ、あのが湧くで、私たちのしいを始めたい』 そのの願いに、峰の誠吾も妻の冴子も、放しで賛同したのだった。
週から、集落の老たちは総で準備に奔した。 藤ら男衆は境内の落ち葉を掃き清め、鳥居の注連縄をしい藁で編み直し、参の段の苔を丁寧に落とした。 源次郎は、社殿の古びた製回廊の板を、持ちの檜の無垢板で張り替えた。鉋をかけるたびに、瑞々しい檜のりがに乗って境内に満ちた。 女衆はハツをに、公民館の調理に朝からてこもり、菜のぷら、ちらし寿司、そして集落の棚田で収穫された餅米を蒸かして、の赤飯を炊きげた。
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『ふみちゃんの孫の婚礼だもの、抜きなんてできるかい!』 歳のハツが、エプロン姿でききとち働く姿は、集落全体の誇りだった。
午。の静寂を破る太鼓の音が、々に厳かに霊した。 参を登ってきたのは、紋付羽織袴を凛々しく着こなした翔太と、息を呑むほど美しい無垢にを包んだ由だった。 由に付き添う誠吾の目には、すでにいものが滲んでいた。 そして、参列者の誰もが目を奪われたのは、由の島田の髷(まげ)に挿された、本のべっ甲の簪(かんざし)だった。 陽を浴びて琥珀に輝くその簪は、かつてふみ子が嫁入りの際、母親から譲り受けた形見の品だったのだ。 式の夜、源次郎から『もし良ければ、にでも使ってやっておくれ』と渡された桐箱を、由は胸に抱きしめて涙を流したのだった。
「……ふみちゃんの簪だ」 最列の席で、ハツが拭いで目を押さえ、嗚咽を漏らした。 「ふみちゃん……見てるかい? あんたの孫が、こんなに派なお嫁さんをもらったよ……」
親族席の最列には、仕ての良い黒の礼にを包んだ源次郎が座っていた。 その膝のには、純の呂敷に包まれた、ふみ子の遺があった。 神職が祝を奏し、々度の盃が交わされる。 カツン、と盃がわさる澄んだ音を聞きながら、源次郎は目を細めた。
(見えるかい、ふみ子。おが命がけで繋いでくれたが、この素らしい縁を運んでくれたぞ) い散る桜のびらが、源次郎の肩に、そしてふみ子の写真のに、祝福のように優しくり積もっていった。