"「施設へ行け」と家を追われた七十五歳、亡き妻の山で見つけた宝" 第14話
声なき絶縁と、吹き抜ける寒
囲炉裏の炭が、パチリとさく爆ぜた。 部のには、の荒い息と、解けの雫が軒先から落ちる規則正しい音だけが響いていた。 源次郎は、差しされたの血った瞳を、正面から見据え返した。 半、横浜の暗い茶ので、世帯宅の甘言を弄しながら実印を押させたあの夜と、寸分違わぬ浅ましい差しだった。 変わったのは、息子の横柄さが、今や破滅への恐怖によって醜悪に歪みきっている点だけだった。
「……」 源次郎のく、穏やかな声が、静寂の空に染み渡った。 「このはな。ふみ子のだ。ふみ子の父と母が汗とにまみれて守り抜き、ふみ子が命の尽きる瞬までし続けた、魂の所だ」 「だから! その母さんの遺産を、息子の俺が効活用してやるって言ってんだろ!」
「黙りなさい」 鳴るわけでも、声を荒らげるわけでもない。 だが、半世紀にわたり自然の巨と対峙し、己の腕本できてきた老職のは、鳴のようなみを持っての言葉を圧殺した。 は息を呑み、喉を鳴らして言葉を詰まらせた。
「おはあの、ふみ子の盆のに、母親の線すらげずに遊びへかけた。ふみ子の遺ので、わしに施設のパンフレットを投げつけた。ふみ子が遺した着物やを、『処分ゴミ』といた段ボールに詰めて捨てようとした」
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源次郎の線が、麗子の元へと移る。麗子は蛇に見込まれた蛙のようにを縮こまらせた。 「おたちが欲しがっているのは、親の否でも、ふみ子のいでもない。ただのだ。己の借を埋めるための、札のだ」
「な……何を偉そうに! 誰のおかげで今まで飯がえてたとってんだ!」 が逆し、膝ちになって鳴り散らした。 「寄りがでこんな広いを抱え込んでどうする気配だ! どうせんだら俺のものになるんだぞ! 認症のボケ老がを張るんじゃない!」 「さん、やめて!」 麗子が慌てての袖を引いたが、度暴発したのは止まらなかった。 「酒蔵にいくらで売ったからねえがな、俺は男だ! 法律の相続権があるんだよ! 親の面倒も見ないでに引きこもってるような奴に、銭の価値も渡すもんか!」
源次郎は、静かに湯呑みを座卓のに置いた。 そして、ゆっくりと首を横に振った。 「。わしには、もうおに渡すも、も、言葉もない。……おたちの顔は、度と見たくない。帰りなさい」 「父さん!!」 「帰りなさいと言っているんだ」
源次郎はそれ以、切目をわせようとせず、目を閉じて囲炉裏に向き直った。 その頑としてかない背は、まるで裏にそびえつ齢数百の杉のようだった。 は悔しさに顔を歪め、畳を拳で激しく殴りつけると、捨て台を吐き捨てた。
「悔するなよ! こんな奥できりでのたれんでも、骨の本も拾ってやらないからな!!」
はドカドカと乱暴な音をてて玄関をていき、のドアを壊れんばかりに叩き閉めた。 急発したSUVの輪が混じりのをねげ、黒い排気ガスを残してをっていく。 源次郎は静かにちがり、け放たれた玄関の引き戸をピタリと閉めた。 のに、再びい静寂が戻ってきた。 縁側からを眺めると、の切れから、筋のの差しが庭の柿のをに照らししていた。 胸の奥にたい枯らしが吹き抜けていくのをじながら、源次郎は仏へ向かい、ふみ子の位牌のに静かに座り直したのだった。