"「施設へ行け」と家を追われた七十五歳、亡き妻の山で見つけた宝" 第13話
煙の襲来と、偽りの座
の初旬。信州のあいは、のうちで最も厳しく美しい極寒の季節を迎えていた。 夜にり積もったは膝のさに達し、朝の気温は氷点度までえ込んでいた。 源次郎は夜けから防寒着にを包み、黙々とスコップを振るって、自宅からハツのへと続くを切りいていた。 い吐息が朝のにキラキラと輝き、ダイヤモンドダストとなってい散る。
正午を回った頃、静まり返ったに、なスキール音といエンジン音が響き渡った。 輪駆の黒い型SUVが、にタイヤを空転させながら、乱暴に坂を登ってきたのだ。 は源次郎が綺麗にかきを終えたばかりの庭先に、無作法に煙を撒き散らしてした。 ドアがき、分い級ダウンコートにを包んだと、毛皮のマフラーを巻いた麗子がりてきた。 元は都会用の革靴とブーツのままで、歩踏みすごとににを取られて滑り、悪態をついている。
源次郎はスコップをに突き刺し、無言のままを見据えた。 半ぶりに見る息子の顔は、目のに黒い隈が張り付き、かつての傲な面の裏に、追い詰められた獣のような浅ましい焦燥が滲みていた。 「……父さん! 寒かったろ、ずっと配してたんだよ!」
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はわざとらしい笑みを浮かべ、抱えていた級百貨の包装に包まれた菓子折りを差ししてきた。 「連絡も寄越さないから、俺たち本当に配でさ。元気そうで本当に良かった!」
源次郎は菓子折りを受け取ろうとはせず、ただ静かに言った。 「何の用だ」 「ち話もなんだから、に入れてくれよ。が凍りそうなんだ」 は源次郎の返答も待たず、勝にまみれの靴を脱ぎ散らかして板のへとがり込んだ。 囲炉裏には、赤々と熾った極の炭が静かにを放っていた。 部の隅々まで磨きげられた黒りする梁、寸分の狂いもなく修繕された建具、そして清潔な座布団。 施設へ送るはずだった老が、みすぼらしく野垂れぬどころか、自分たちよりも遥かに豊かな暮らしを営んでいる景を目の当たりにし、麗子は悔しそうに唇を噛み締めた。
源次郎は無言のまま、鉄瓶の湧で淹れたい番茶をのに置いた。 湯呑みを啜ったは、喉を鳴らすと、いきなり畳のに両膝をつき、々とをげた。 「父さん! 本当に……本当に悪かった!!」 「……何がだ」
「あのは、会社の資繰りでがおかしくなっていて、父さんに酷い仕打ちをした! 母さんがんで気がっていたんだ! ずっと、ずっと悔してたんだよ! 俺たちが違っていた! だから……これからは、俺たち夫婦が父さんを責任持って引き取って、横浜で贅沢な暮らしをさせてやるから!」
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隣で麗子も、わざとらしくハンカチで目元を押さえながらをげた。 「そうですお父様! こんな隙の吹く奥で暮らしなんて、見ていて胸が張り裂けそうでした! 今すぐ横浜へ戻って、私たちと緒に温かいお呂に入りましょう!」
源次郎は、じろぎもせずののてっぺんを見つめていた。 その瞳は、材の芯にある腐敗を見抜く職の差しそのものだった。 「……それで。件は、それだけか」 はビクッと肩を震わせ、目遣いに顔をげた。 「え……? あ、いや……そのさ。峰酒造の社さんから聞いたんだよ。こののと炭に、目をつけた業者がいるってさ。父さん、もうだし、そういうややこしい契約や銭の管理なんて、じゃ無理だろ? 騙されてを乗っ取られたら変だ」
はを乗りし、唾をばしながら本性を剥きしにした。 「このと敷の登記名義を、男である俺に今すぐ移してくれればいいんだ! そうすりゃ、の料メーカーや産ファンドにく売り払って、億単位の現に変えてやる! 父さんにはそので、都の最級老ホームの特等席を用してやるからさ! なあ、実印はどこにあるんだ!?」