"「施設へ行け」と家を追われた七十五歳、亡き妻の山で見つけた宝" 第9話
柿ののの再会と、甘いの衝撃
の最初の曜。 裏の葉が錦の絨毯を広げ、源次郎のの軒には、ハツに教わりながら丁寧に皮を剥いて吊るした干し柿が、飴の輝きを放ちながらずらりと並んでいた。 源次郎が脚に登り、干し柿の揉み具を確かめていると、底から響くのエンジン音がに届いた。 郵便配達のバイク以、滅に両の入らない集落である。 を止めて坂を見ろすと、葉のトンネルを抜けて、見慣れないい軽自がゆっくりと登ってきた。
は庭先の空きにまり、運転席のドアが勢いよくいた。 りてきたの青は、作業着姿の源次郎の姿を界に捉えるなり、息を呑んでち尽くした。 次の瞬、青は転げるように坂を駆けがってきた。 「……じいちゃんッ!!」 その叫び声を聞いた瞬、源次郎の指先から、干し柿の藁紐がポロリと滑り落ちた。
「……翔太……?」 「じいちゃん! ずっと探したんだぞ! 親父たちに聞いても『どこへったからん』の点張りで……!」 駆け寄ってきた翔太は、源次郎の両肩をがっしりと掴み、子供のように涙をボロボロと零した。 半ぶりの再会。アジアの過酷な現を経験してきた孫の顔つきは精悍さを増していたが、その瞳に宿る純粋なは、縁側でスイカを頬張っていたの頃と何つ変わっていなかった。
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源次郎は喉の奥がくなり、言葉がなかった。ただ、たくましくなった孫の背を、節くれったで何度も、何度もく叩いた。 「……よく来たな。よく、ここまで来てくれた……」
ふと見ると、の助席側から、もうのが歩み寄ってきた。 落ち着いた濃紺のワンピースのにカーディガンを羽織り、髪をろでつに束ねた、清楚でな佇まいの若い女性だった。 女性は源次郎のにみると、々と礼儀正しくをげた。 「初めまして、おじい様。突然お邪魔して申し訳ありません。翔太さんと婚約しております、峰由(しらみね・ゆい)と申します。結婚のご報告を兼ねて、どうしてもおじい様にお目にかかりたくて、まいりました」 源次郎は驚いて翔太の顔を見げた。翔太は照れくさそうにのを擦った。 「赴任から帰国して、来のに式を挙げることになったんだ。何があっても、真っ先にじいちゃんに報告したくてさ」
源次郎は慌てて作業着の裾でのついたを拭い、々とをげ返した。 「……翔太の祖父の、源次郎です。こんな奥の便なところまで、よくぞ来てくださった。さあ、がってください。何のお構いもできませんが」
を囲炉裏のある板のに通すと、源次郎は自の炭を熾し、鉄瓶の湯を沸かした。 由は物珍しそうに、だが敬を込めた差しでのを見回していた。
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黒りする梁、寸分の隙もなく張り替えられた障子、そしてのに置されたふみ子の遺。 「とても入れのき届いた、温かいおですね……。おじい様がおで修繕されたのですか?」 「ええ、の真似事のようなものですがね」
湯が沸くと、源次郎は急須に茶葉を入れ、しました湯を注いでへ差しした。皿には、庭のから採って干したばかりの干し柿を添えた。 「裏の岩から湧きているで淹れました。おにうかどうか」 由は両で湯呑みを包み込み、、静かにに含んだ。 その瞬――由のきが、完全に静止した。
由は信じられないといった表で湯呑みを見つめ、もう、今度は舌ので転がすようにしてわった。 そして、弾かれたように顔をげ、源次郎を凝した。 「おじい様……! このお、体どこから引いているのですか……!?」 「え……? のすぐ裏の、杉林の岩から湧いておりますが。くなった内が、子供の頃から『甘い』と呼んで切にしていたです」 「甘い……! 本当にその通りです……!」 由の頬が興奮で微かに潮していた。 「非常に柔らかい超なのに、ミネラルの芯が通っていて、雑が微もありません。……実は私の実は、陸の富で百続くさな酒蔵『峰酒造』を営んでおります。私は幼い頃から父に連れられて全国の名を利きしてまいりましたが、これほどまでに清らかで、酒造りに理な湧には、まれて初めて会いました……!」