みかん小説
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"「施設へ行け」と家を追われた七十五歳、亡き妻の山で見つけた宝" 第7話

甦る炭窯と、集落の絆

翌朝、源次郎は具箱を提げてハツのを訪れた。 問題の引き戸をしてみると、湿気と経劣化で建具の底面が弓なりに反り、敷居の溝にくい込んでいた。 源次郎は用の鉋を取りし、庭先に敷いた茣蓙(ござ)ので、反った肌をミリ単位で削り落としていった。 シュッ、シュッ、とよいリズミカルな音が響き、のような鉋屑が幾にも丸まって元に落ちる。削り終えた底面に蜜蝋を丹に塗り込み、敷居の溝を掃除して戸を嵌め直した。 指先本で軽く触れると、かったはずの引き戸が、音もなくスルスルと吸い込まれるように滑った。

「まあ……! 指本でくよ! まるで品みたいだねえ!」 ハツは目を丸くし、子供のように何度も戸をけ閉めして歓声をげた。 そのの夕暮れには、ハツの引き戸の話は集落の隅々までれ渡っていた。 それからというもの、源次郎の元にはの老たちから、途絶えることなく頼み事がい込むようになった。 『戸がれなくなってしまった』 『縁側の板が踏み抜けて危ない』 『納の棚板が傾いて物が置けない』 源次郎はどんな些細な相談にも嫌な顔つせず、具箱を抱えて駆けつけ、寸分の狂いもなく修繕した。 誰として修理代を請求することはなかったが、その代わり、源次郎のの縁側には、毎朝のように野菜や米が届けられるようになった。

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ハツの漬けた野沢菜、掘りたての里芋、米の袋、作りの噌。 かつて横浜ので、えたスーパーの惣菜を啜っていた老は、今やの温かな恵みに囲まれていた。

、々が支度を始める頃、の老である藤が、裏を指差して言った。 「佐伯さん、あのにある古い炭窯をっとるかね? ふみ子さんの親父さんはな、この郷じゃらぬ者のない名うての炭焼き職だったんだ。あのの焼く炭(しろずみ)は持ちが抜群で、松本の料亭がこぞって買い付けに来たもんさ」 源次郎は胸を打たれ、すぐに裏の急斜面を登った。 杉林の奥、斜面を切りいた平坦に、と粘で築かれたドーム状の炭窯が静かに眠っていた。 井の部が崩落していたが、台の組みと煙は驚くほど頑牢なまま残されていた。 「……直せる。わしので、もう度を入れてみせる」

藤の指導を受けながら、源次郎は裏の赤と藁を練りわせ、崩れた窯の井を何層にも塗り固めていった。 材の目利きにかけてはのキャリアを持つ男である。自らの裏に入り、炭材に最も適した齢の楢(なら)や樫のを選定して伐採し、さを切り揃えて窯の内部に隙なくて並べた。 初入れのには、藤とハツも駆けつけた。

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焚きに種を投じると、やがて煙突からモクモクと濃い煙がちり始めた。 煙のが青く変わり、透度を増すまで、源次郎は窯の傍らに筵(むしろ)を敷き、晩、もせずに空気穴の閉を調し続けた。

そして目の朝、完全に空気を遮断して消した窯の組みを崩した。 から現れたのは、の属沢を放ち、凛として直する無数の炭だった。 源次郎がその本を取りし、別の炭と軽く打ちわせると―― キーン、と。 まるでの朝の澄み切った鐘の音のような、く清らかな属音が、静寂のあいに吸い込まれるように響き渡った。 「……見事だ」藤が息を呑み、炭を撫でた。「ふみ子さんの親父さんの炭と、まったく同じ音がする。本物の炭だ」 源次郎はその炭を両で抱きしめ、を仰いだ。たいのに、妻の誇らしげな微笑みが見えた気がした。

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