"箱詰めされた母の人生" 第3話
急いでいたのは「母の全」ではなかった
その夜、私は実に泊まった。
夫からは何度も話が入ったが、度もなかった。続けて《歩美、どこにいる?》《何かあったなら連絡して》とメッセージが届いたが、今さらその々しさに付きう気にはなれなかった。
数分には、圭子からも話があった。
《輔が配しています。何かあったの?》
私はその通を見ただけで携帯を伏せた。
夕方、圭子のスマートフォンに表示された文章がかられなかった。
《歩美の母親のことは俺がうまく処理したよ(笑)》
あの親子にとって、母は「処理」する対象だった。
布団へ入ったあとも眠れなかった。隣からは母の静かな寝息が聞こえていたが、私は暗い井を見ながら考え続けた。
なぜ、千百万円なのか。
私たちの活に、そのは必ない。
夫婦で共働きをしており、マンションの返済計画にも問題はなかった。なくとも、私がっている計には千百万円もの穴などしない。
翌朝、台所から噌汁の匂いがした。
その穏やかなりが、昨までの来事を悪のようにじさせた。けれど、朝をべ始めたところで玄関のチャイムが激しく鳴った。
「あゆみ、いるんだろ!」
輔だった。
私は母を座らせたまま玄関へき、ドアを半分だけけた。
「なんで勝に泊まってるんだよ。
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連絡くらいしろよ」
「入らないで」
輔はを止めた。
「何だよ、その言い方」
「お母さんに、私が距を置きたいって言った?」
瞬だけ、輔の線が揺れた。
「何の話だよ」
「私がお母さんの話を負担にってるって言った?」
「最疲れてただろ。だから俺が気を利かせただけだよ」
「を売って千百万円を私たちに渡してほしいって、私が頼んだ?」
今度こそ、輔の顔が変わった。
「それは……お義母さんも納得してる話だろ」
「質問に答えて。私が頼んだの?」
輔はしばらく黙り、最には「頼まれてはいない」と認めた。
ところが次の瞬には、「階建ては危ない」「暮らしには広すぎる」「結果に全な施設が見つかった」と、自分のを正当化し始めた。
私はその言葉を聞きながら、議なくらい静になっていった。
「それと嘘をつくことは別でしょう」
「嘘ってほどじゃない」
「昨、お母さんは私に嫌われたとって、で器を箱に詰めてた」
輔の表が固まった。
「そこまでい詰めるとはわなかった」
その言葉で、私のに残っていたわずかな期待が消えた。
らなかったのではない。
の気持ちをく傷つける能性があると分かっていて、それでも目のために続けたのだ。
背から音がした。
母が廊へてきた。
「輔さん」
「お義母さん、歩美がし誤解していて……」
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「歩美は、私にていってほしいなんて言ってないんですってね」
「それは……」
「あなた、私に嘘をついたのね」
母の声は震えていたが、線は逸れなかった。
輔は何か説しようとしたが、母は最まで聞かなかった。
「今は帰ってください」
その言葉に、輔は初めて黙った。
しばらくして、「ともに血がってる。静になったらまた話そう」と言い残し、逃げるように帰っていった。
玄関の鍵を閉めたあと、母はそのできく息を吐いた。
「怖かった……」
「でも、言えたね」
「うん」
母はし笑った。
それから私たちは、夫がめていた続きをつずつ止めることにした。
最初に向かったのは、齢者向け宅だった。
担当者のさんは、私の顔を見るなりし驚いた。
「娘さんですか。実は、度お会いしたかったんです」
「私に?」
「はい。何度か輔さんへお願いしていました」
胸騒ぎがした。
さんは面談記録をいた。
そこには母の言葉として、《娘が望むなら入居する》《娘に迷惑をかけたくない》と記されていた。
そして、そのに輔の説が残っていた。
《妻は母親の居問題に関わりたくないと言っている》
私はわず聞き返した。
「これ、本当に夫が言ったんですか?」
「はい」
さらに、《妻を同席させると夫婦関係が悪化するため、自分が窓になる》とまで記録されていた。
私は拳を膝ので握った。
輔は母だけを騙していたのではなかった。
部のにも、私が「母を捨てたがっている娘」だとわせる必があったのだ。
なぜなら、そのほうが誰も私へ連絡しないから。
母が孤し、輔だけを頼る状況を作るために。
さんは静かに言った。
「正直、し違はありました。お母様が話す娘さん像と、輔さんが話す娘さん像があまりにも違いましたから」
そして母は、自分ので入居続きを止めたいと告げた。
さんは母のを確認し、続きを保留にしてくれた。
施設をたあと、母はく息を吐いた。
「つ、終わったわね」
「うん。でも、まだのほうがある」
私たちはそので、産会社へ向かった。
そこでらされたのは、輔が何度も担当者へ尋ねていた質問だった。
「最なら、売却代はいつ現になりますか」
「税や諸費用を引いたあと、元に残る額はいくらですか」
母の全についてではない。
しい居についてでもない。
夫が繰り返し確認していたのは、ただつ。
いつ、いくらの現がに入るかだった。