"箱詰めされた母の人生" 第1話
「うまく処理したよ」
義母の圭子がシャワーを浴びている、ダイニングテーブルに置かれたスマートフォンがく震えた。見るつもりなどなかった。ただ、暗かった画面が突然るくなり、通欄に夫・輔の名が表示されたから、反射に目が向いただけだった。
《母さん! 歩美の母親のことは俺がうまく処理したよ(笑)》
私は瞬、そのが理解できなかった。「処理」という文字だけがのに焼きつき、次の瞬、指先から血の気が引いていった。浴からはまだシャワーの音が聞こえている。圭子は何もらない顔で、あと数分もすればここへ戻ってくる。
私は義母のスマートフォンには触れず、自分の携帯を取りした。母・幸子へ話をかける。呼びし音は回く続いたが、母はなかった。もう度かけても同じだった。
《お母さん、今どこ? にいる?》
送信しても既読はつかない。
胸の奥で何かがきく崩れる音がした。
か、輔は夕の席で突然、「お義母さん、齢者向けの宅を探してるみたいだよ」と私に言った。私は驚いて母に連絡しようとしたが、輔は「本が自分で考えたいらしい。今はあまりをさないほうがいい」と止めた。
その、母からの話が減ったも、輔は「し距を置きたいんじゃないか」と言った。
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私は信じた。
母にも自分の活がある。歳を過ぎても、何でも娘に相談しなければならないわけではない。そうい、自分から頻繁に話するのをやめた。
今になってえば、それこそが輔の望んでいたことだったのかもしれない。
私は子に掛けてあったバッグを掴んだ。圭子に声をかけることもせず、玄関をびした。
夜を運転しながら、別の記憶も蘇った。
かほど、圭子が何気ない調で言ったことがある。
「幸子さん、おなんでしょう? を取ったらきなを持っているだけでも変よ。めに理したほうがいいんじゃない?」
あのは単なる世話だとった。
だが今なら分かる。
あのも、っていたのだ。
母からの話が減ったこと。齢者向け宅を探しているという話。そして、輔が送った「うまく処理した」という言葉。
バラバラだったものがつにつながり始めていた。
実へ着いたのは午くだった。築以の階建てのは、から見る限りいつもと変わらない。けれど窓にはつもかりがついていなかった。
鍵で玄関をける。
「お母さん?」
返事がない。
靴を脱ぐのももどかしく廊をみ、居の襖をけた瞬、私はそのでち尽くした。
具が減っていた。
壁にあった父との旅写真はされ、使っていた本棚のは段ボール箱に詰められている。
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器棚も半分以空き、聞に包まれた皿や湯みがに並んでいた。
その真んに、母がで座っていた。
いつもののセーターを着て、さく背を丸めている。
「……お母さん」
母が顔をげた。
「あら、歩美。どうしたの」
「どうしたのじゃないよ。これ、何してるの?」
母はしばらく黙り、それから困ったように笑った。
「来なくてもよかったのに」
「どういう?」
その質問に、母は膝ののをぎゅっと握った。
「輔さんから聞いたから」
「何を?」
「……あんたが、もう私のことを考えるのがしんどいって」
私は息を止めた。
「夫婦のも欲しいし、私から頻繁に話が来るのも負担だって。だから、しれたほうがいいって」
「私、そんなこと度も言ってない」
母の顔から表が消えた。
「え?」
「回も言ってないよ」
私はそのに膝をついた。
「逆だよ。私は輔から、お母さんが私と距を置きたがってるって聞かされてた」
しばらく、私たちは互いの顔を見つめることしかできなかった。
やがて母の唇が震えた。
「……私たち、何してたの?」
その言で、母の目から涙があふれた。
そして私もようやく気づいた。
このか、輔は私と母のにっていたのではない。
私たちが直接話さないよう、両側からしずつざけていたのだ。
けれど私は、そのまだらなかった。
輔が欲しかったのは、母と私を疎にすることだけではなかった。
居の隅に置かれていた冊のファイルをいた瞬、私は夫がなぜここまでの込んだ嘘をついたのか、その本当の理由に触れることになる。