"残高ゼロの通帳" 第6話
話越しの逆転劇
駅ATMコーナーの無質な子音が、受話器越しに狂乱する義母の号と混ざりい、実の静かな茶のに響き渡っていた。
『棒! あんた棒よ! の通帳から百万円く持ち逃げするなんて、どういう見なのよ! 今すぐ戻ってきておを元に戻しなさい!』
をつんざくような切り声に、茶をすすっていた母が台所のを止め、居の隅で本を読んでいた父が静かに顔をげた。しかし、ゆきのは微も震えていなかった。膝のに乗せた両を揃え、呼吸をえてから、極めて淡々とした声でスピーカーに向かって告げた。
「お義母さん、勘違いしないでください。私は自分名義の座から、別の自分名義の座へおを移させただけです。円たりともの財産は盗んでいません」
『屁理屈言うんじゃないわよ! 私が管理するって言ったでしょ! 通帳を預かったんだから、そのもこののものに決まってるじゃないの!』
「私は『通帳をお預けします』と言いましたが、座のまで差しげるとは言も言っていません。通帳はの冊子に過ぎませんから、お約束通りそちらにお渡ししてあります。どうぞそのまま切にお持ちください」
『なっ……な、なんですって!?』
受話器の向こうで、節子が絶句して息を呑む音がした。
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まさか、いつも黙ってをげていた従順な嫁から、これほど理然と皮肉を返されるとはっていなかったのだろう。
しかし、節子はすぐにりを倍増させて叫びてた。
『警察よ! 警察に訴えてやるわ! 嫁がのおを奪って逃げたって! 会社にも話してやる! 経理のが横領紛いのことをして逃してるって、社に直訴してクビにさせてやるから覚悟しなさい!』
「どうぞ、ご自由に。警察にも会社にも、ありのままを説するだけです。私名義の座の預を、名義本がかしたことに何の違法性もありませんから」
ゆきが平然と言い放つと、節子の横からガサガサと受話器を奪い取る音がして、夫・信吾の焦りきった声が割り込んできた。
『ゆき! お、いくらなんでもやりすぎだろ! 母さんがパニックになってるじゃないか! それに……昨注文した蔵庫、どうするんだよ! 配達に万円を括で払う約束で契約してきたんだぞ!』
「私には関係ありません。ご自のおでお支払いください」
『そんなあるわけないだろ! 俺の遣いじゃりないんだよ! おが払うはずだったんだろ!?』
「私が払うと誰が言いましたか? おが私の料をあてにして、勝に注文してきただけでしょう。私には事の相談も承諾も切ありませんでした」
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信吾が言葉に詰まり、息を切らす。その、ゆきの隣に座っていた姉の子が、すっとを伸ばしてスマートフォンを引き寄せた。役所の窓で百戦錬磨のクレーマーを捌いてきたプロの徹な声が、マイク越しに放たれた。
「笠原さん、初めまして。ゆきの姉の子と申します」
突然の第者の介入に、話の向こうがを打ったように静まり返った。
「え、あ……お姉さん……?」
「妹の料を義母が管理するのが『族の当たり』だとおっしゃるなら、つお伺いしたいのですが。お義母様のの通帳と印鑑も、今すぐ妹に預けていただけますか? 妹は経理のプロですから、お義母様のも円単位で無駄なく管理して差しげますよ」
話の向こうから、節子の『な、なんで私のを嫁に……!』という引きつった声が漏れ聞こえた。子は嘲笑混じりに続けた。
「ご自分のは渡したくないのに、嫁の料だけは奪い取る。それを世では『管理』ではなく『奪』と呼ぶのですよ。それから信吾さん、妹の職への嫌がらせや警察への虚偽通報をにされるなら、こちらとしても法な対抗措置を即座に取ります。妹が過に庭内でわれたモラハラや暴言の記録、すべて詳細な記とタイムスタンプ付きのデータで保全してありますから。それでは失礼いたします」
子は切の反論を許さず、通話終ボタンをタップした。
茶のに、静寂が戻った。子はめた麦茶を気にみ干すと、ゆきに向かってニヤリと笑った。
「よし、これで第ラウンド終ね。あいつら、今頃ATMので泡吹いてるわよ」