"残高ゼロの通帳" 第5話
もぬけの殻と曜の呼びし音
翌朝、曜の午。
節子はいつもよりもく起きし、鏡ので入りに化粧を施していた。
「信吾、駅の量販へくわよ。最式の型蔵庫、万のやつを今予約してくるんだから。帰りに美しいお寿司でも奢ってちょうだいね、ゆきさんのおで!」
「わかったよ、母さん。すからちょっと待ってくれ」
信吾も着を羽織りながら、ダイニングの隅で掃除用具を片付けていたゆきに声をかけた。
「ゆき、おも来るか? 蔵庫の、応見ておいた方がいいだろ」
「いいえ、私は部の掃除と片付けがあるから。おでってらっしゃい」
「そうか。じゃあ夕方には戻るから」
は気揚々と玄関をてった。節子の腕に提げられたハンドバッグのには、残ゼロの通帳が事そうに収められている。
午分。エントランスのインターホンが鳴り、姉の子(あきこ・歳)が作業用の軍をはめて現れた。
役所の健康保険課で窓業務を取り仕切る子は、昔から決断力と力にけた女性だった。
「荷物はまとまってる?」
「うん。このヶで、実に帰るたびにしずつ運んであったから」
寝に残されていたのは、常着の入った段ボール箱と、仕事の類、そして独代から用しているマグカップだけだった。
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結婚当初にで購入した具や、器棚のい皿のセットには切を触れなかった。
「この器、置いていくの? ゆきが買ったやつでしょ」
「いいの。持っていくと『棒』って言われるから。活に必なものは全部置いていくわ」
「ふん、相変わらず静ね。まあ、その方がで突っ込まれなくていいわ」
らずで荷物の積み込みは完した。
部をる直、ゆきはダイニングテーブルの央に、枚の便箋を置いた。
『お母様に「ていけ」と言われ、信吾さんもそれに同されましたので、お言葉通り実へ戻ります。今のことは、すべて面にてお願いいたします』
鍵をかけ、その鍵を郵便受けの隙から内のへチャリンと落とした。これで、ゆきがこのマンションに入る物理な段はすべて断たれた。
実へ向かう軽トラックの、子はハンドルを握りながらを見据えて言った。
「ゆき、よく決断したわね。通帳を渡した瞬に全部ゼロにして逃げるなんて、あいつらにとっちゃ最の悪よ」
「……私、違ってないよね」
「違ってるもんですか。あんたのおはあんたのものよ。あんな寄虫親子に円だってくれてやる筋いはないわ」
正午過ぎ、実に到着すると、母親が何も聞かずに温かいお茶と昼のうどんをしてくれた。
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居の隅で聞を読んでいた元公務員の父親は、鏡の奥からゆきを瞥し、「自分のだ、納得がいくように腹を括りなさい」とだけ告げた。族のその静かな温もりに、ゆきの張っていた肩の力がようやく抜けていった。
そのの夕方、信吾から『どこにいるんだ?』『母さんがってるぞ』とメッセージが連投されたが、ゆきは『メモの通りです』とだけ返し、源を落とした。
そして、運命の曜——の午分。
居のテーブルに置いてあったゆきのスマートフォンが、けたたましい振音をててねがった。
画面に表示された着信名は『義母』。
ゆきは隣に座る子と線を交わし、呼吸をつ落としてから、通話ボタンをスワイプした。
スピーカーホンにした瞬、をつんざくような甲い切り声が、静かな茶のに響き渡った。
『ちょっと! ゆきさん!! あなた、通帳のおをどこへやったのよッ!!』
背から、のATMコーナー特の子音声がガサガサと漏れ聞こえてくる。
『——カードまたは通帳をお受け取りください。お忘れ物にご注ください——』
曜の窓営業まで待ちきれず、曜稼働の駅張所へ通帳を握りしめて駆け込んだ節子が、械から吐きされた印字を見て狂乱しているのだと、瞬で理解できた。
『万あったはずのおが、綺麗さっぱり消えてるじゃないの! 残が「〇」って、体どういうことなのよッ!?』
受話器の向こうで、節子の荒い呼吸と、信吾の狼狽した声がなりっていた。