"四万円を断った朝" 第5話
会議で私を切り捨てた理由
「それ、捨てないでください」
私は首からした特別補佐の社員証を、駐のゴミ箱へ投げようとしていた。
声の方を見る。
いシャツに黒いパンツ姿の耶が、暗い柱の横にっていた。
「何しに来たんです」
「話をしに」
「昼、分話したでしょう」
私は笑った。
「未熟で、根拠のない推測をする補佐。役員のを無駄にする。あなた自がそう言った」
「必だったからです」
「何が?」
「あなたを負けさせることが」
私は目を細めた。
耶は私の正面まで来た。
昼の会議では、たい女社そのものだった。
だが今は顔に疲れがている。
「田がした倒し購入の決裁。あれは、までしていませんでした」
私はタバコを持つを止めた。
「何ですって?」
「元のデータにはなかった。あなたがのの輸送を指摘した翌夜、過付でしい記録が追加されています」
「そんなことができるんですか」
「権限を持つがければ」
「なら、今それを言えばよかったでしょう」
「誰に?」
耶の問いに言葉が止まった。
「報システム部は田派。法務部も田にい。監査役のは彼が推薦したです。私が会議で『偽造だ』と言ったところで、確認するのは彼らです」
私はようやく理解し始めた。
「私に指摘させたのは……」
「彼らをかすため」
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「私を囮にした?」
「そうです」
あまりに平然と答えるので、逆に鳴る気が失せた。
耶は続けた。
「半、私は彼らがくのを待っていました。でも完璧すぎて尻尾をさなかった。あなたが突然現れ、正を真正面から指摘した。田はあなたを潰すために、自分たちの防御を急いで作り直した」
「そのにシステムへ触った痕跡が残った」
「ええ」
「だから私を役員会で笑い者にした」
「彼に勝ったとわせる必がありました」
私は井へ煙を吐いた。
「ずいぶんい授業料ですね。払ったのは私の名誉ですが」
耶は答えなかった。
しして言った。
「謝りません」
私は顔を向けた。
「謝れば済むことだとっていないからです」
その言葉だけは妙に真っすぐだった。
「あなたを利用した。それは事実です。でも、今やめるなら止めません」
「続けろと言うんですか」
「むしろ、ここからが本当の調査です」
耶はさなメモリーを取りした。
「田たちは、あなたが私の切り札だとっています。今完全に叩き潰したとっている。だから警戒が度緩む」
「私がまだ会社にいれば、緩まないでしょう」
耶は私の社員証へ目をやった。
「その通り」
嫌な予がした。
「何を考えているんです」
「あなたには、もう度負けてもらいます」
「もう度?」
「次は今よりひどく」
私は乾いた笑いを漏らした。
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「社という仕事は、のを壊すのが趣なんですか」
「私自のも、もう半分壊れています」
その声だけ、わずかに揺れた。
しかしすぐ元の表に戻った。
「田を倒すには、会社のからけるが必です。社員証も肩きもない。監の対象かられた」
私は黙った。
「さん」
初めて彼女が私を役職ではなく名で呼んだ。
「ここでりてもいい。あなたには借がある。守る活がある。それでも続けるなら――今、私はあなたを公ので守らない」
「方なのに?」
「方だからです」
理解しにくい言葉だった。
だが、この会社のでは正面からかばわれることこそ、敵にとって番分かりやすい標になる。
私は社員証を見た。
そして首へ戻した。
「次は私が考えます」
「何を?」
「いつ負けるかです」
耶の目がしいた。
「囮になるのは回で分です。次に私を切るなら、こっちにも筋きを共してください」
「分かりました」
「それとつ」
私は彼女を見た。
「次に私をであれだけ罵倒するなら、もうし演技を練習した方がいい」
「なぜ?」
「目が度も笑っていなかった」
耶は数秒黙ったあと、初めて声をてて笑った。
それが、私たちが初めて「同じ側」にった瞬だった。
ところが、その週。
田が仕掛けてきた罠は、私たちの予をはるかに超えていた。
私は会社の最密を競企業へ漏らした犯に仕てられた。
証拠は私のパソコン。
は千万円の借。
そして臨役員会の席で、耶は私を見つめてこう言った。
「拓。あなたを本付で解雇します」
しかも彼女の机には、会議が始まるから私の解雇通が用されていた。
なぜ彼女は、まだ起きてもいないはずの罠をっていたのか。
そしてなぜ――私を救うどころか、自分ので会社から完全に追いしたのか。