"剣を捨てない花嫁" 第2話
弟がまれた、私はいらなくなった
父が差ししたには、私のらない名がかれていた。
久世。
町から馬で半ほどれた所にある旧で、代々武芸をんじてきただという。現の当主には息子がいて、その跡取りとの縁談が決まったのだと父は淡々と説した。
「どうして私なのですか」
わず尋ねた私に、父は眉をひそめた。
「娘が嫁にくのに理由が必か」
これまで度も娘として扱わなかったが、突然その言葉を使った。
胸の奥に何かが刺さったが、私は顔にさなかった。
父の机の端には帳簿が置かれていた。以からの根修理やの税がなり、経営が苦しいことはっていた。弟の数も昔ほどではなく、父が夜遅くまで計算をしている姿も何度か見ていた。
「久世が借を肩代わりしてくださる」
父はそう言った。
そこで私はようやく、自分の役割を理解した。
今度は跡取りの代用品ではない。
借を返すための代だった。
「分かりました」
私がそう答えると、父は驚かなかった。むしろ当然だという顔をして頷いた。
「先方は、おが普通の娘らしくないことも承している」
「そうですか」
「向こうへったら剣は捨てろ。久世の嫁になるのだから、恥をかかせるな」
その言葉だけは議だった。
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歳から、父は私に剣を握らせた。が裂けても、があっても、試で骨を痛めても、休むことを許さなかった。それなのに弟がまれた途端、そのまで消せと言う。
「はい」
私はもう度答えた。
反抗すれば、母が困るとった。弟はまだ赤ん坊だったし、にも弟たちがいる。私が騒いだところで何も変わらない。
婚礼までのか、私は刀を握らなかった。
の横を通るたびに体が勝にを止めそうになったが、父は私を見ることもなかった。母だけが何度も「嫌なら断っていいのよ」と言ったが、そのたび私は首を振った。
「もう決まったことだから」
母は泣いた。
けれど私は泣けなかった。
久世へ向かう、父はのまで見送りにも来なかった。
母が用してくれた着物を着て、慣れない髪を結い、私は馬に乗った。弟は母の腕ので眠っていた。
さなだった。
あの子を憎めればしは楽だったのかもしれない。
だが私は、弟に罪がないことをっていた。
だからこそ、誰をめばいいのか分からなかった。
久世は像していた以にきな敷だった。い塀と派な、庭には入れのき届いた松が並び、玄関では何もの使用がをげていた。
そので、だけ私を見て笑った女がいた。
「まあ」
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隣にいた女へ声で何かを囁き、で元を隠す。
私は聞こえないふりをした。
婚礼の支度が始まると、着物の着方から座り方まで何度も直された。
「肩をもっと落として」
「歩幅がきすぎます」
「が男みたいです」
「お茶碗はそんなふうに持ちません」
言われるたびに直した。
剣術なら度教われば忘れなかったのに、女としての作法は何度やってもぎこちなかった。
婚礼当。
廊ですれ違った若い女が、わざと私の裾を踏んだ。
体がに傾いた瞬、私は反射にを引き、相の首を取った。
女の顔が引きつる。
私はすぐをした。
「あら、ごめんなさい」
女はく笑った。
「殿方のように育った方なら、このくらい平気でしょう?」
周囲にいた者たちがさく笑った。
そのだった。
「平気かどうかを決めるのは、おではない」
ろから男の声がした。
振り返ると、黒い羽織を着た青がっていた。
私の夫になる、久世臣だった。
彼は女ではなく私を見た。
そして差ししたで、静かに私をたせた。
「無理に笑わなくていい」
その言に、私はどう返事をしていいか分からなかった。
優しくされることに慣れていなかったからだ。