"出張先で娘が「物置で寝てる」と泣いた夜" 第5話
解き放たれた真実と黒い企み
ガチャリ、といラッチがれ、物置の引き戸が軋んだ音をてていた。
の廊のが、畳ほどの狭な空へと差し込む。
を突いたのは、締め切られていた埃とカビの混ざった饐えた匂いだった。古い扇や段ボール箱が井くまで積みげられた隙、わずか畳ほどのスペースに、つのさながを寄せってうずくまっていた。
妻の苗と、娘の美だった。
がに纏っていたのは、来客用のの用肌掛け布団が枚だけだった。苗はコンクリートの気が染みがるに直に座り込み、自らの体で覆い隠すようにして美を胸に抱き抱えていた。苗の顔は気で、唇はに変し、刻みに全を震わせている。
美は苗の胸元に顔を埋め、息を潜めるように丸まっていた。
「……苗」
亮平の声は、掠れてほとんど音にならなかった。
物置のに膝を落とし、のそばへい寄る。ズボンのを通して、から刺すような気が膝を貫いた。この底えする暗ので、は以もの、閉じ込められていたのだ。
気配を察した苗が、ゆっくりと顔をげた。
落ちくぼんだ目、赤く腫れがった瞼。苗は目のに現れた夫の姿を認めた瞬、恐怖に怯えたように息を呑み、咄嗟に美をさらにく抱きしめた。
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「……あなた……? どうして……」
その警戒と怯えに満ちた反応が、亮平の胸を鋭利な刃物で抉り抜いた。妻にとって、自分はもはや「助けに来てくれた夫」ではなく、「母親の方をする敵」の延として映っていたのだ。
「すまない……苗、本当にすまない……!」
亮平は着ていたのウールコートを脱ぎ捨て、を包み込むようにから覆いかぶせた。
その温もりに気づいたのか、苗の腕ので美がじろぎをし、ゆっくりと瞼をけた。暗に慣れていた瞳が、ので亮平の顔を捉える。
「……パパ?」
ので呟くような、さな声だった。
「美! パパだ、パパが帰ってきたぞ! もう丈夫だ!」
亮平は美のえ切ったさな両を握りしめ、自らの頬に押し当てた。氷のようにたいさな指先。涙がとめどなく溢れし、娘のの甲を濡らした。
美の瞳にが戻り、次の瞬、娘はがついたように泣き叫びながら亮平の首にしがみついてきた。
「パパぁっ! 怖かった……暗くて、寒くて……おばあちゃんが、物音てたら警察呼ぶって……!」
「ああ、ごめんなさい……パパが遅くなってごめんなさい……!」
亮平は美のさな背を抱きしめ、苗のたい肩を抱き寄せた。
「ここからよう。もう度と、こんな所にはいさせない」
亮平が美を抱きげ、苗の腰を支えてちがらせようとした、そのだった。
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「あら、亮平? 張はまでじゃなかったのかい?」
背から、平然とした、どこかそうに尖った声が響いた。
振り返ると、廊にガウンを羽織った母の貴子がっていた。寝起きの気だるげな顔で腕組みをし、け放たれた物置の扉と、コートを着せられた苗たちをややかに見ろしている。
「母さん……おは、自分が何をしたのか分かっているのか」
亮平のく濁った声に、貴子はわずかに眉をひそめたが、すぐに嘲笑うような笑みを浮かべて言い放った。
「何よ、げさに騒ぎてて。由紀たちが急に泊まることになったから、部を融通しただけじゃないの。翔太ちゃんは男の子だし、ベッドじゃないとでしょう? このたちが『物置でいい』って自分で言ったのよ。子供のキャンプごっこみたいなものじゃない」
「……嘘をつくな!」
苗が、震えるでコンクリートのを踏みしめ、初めて貴子を真正面から睨み据えた。
「お義母さんが……由紀さんとで、私たちをここに押し込んで鍵をかけたんでしょう! あの類にサインしないなら、晩ここにいろって!」
「類だと?」
亮平が問い質すと、貴子の顔から瞬にして血の気が引いた。
苗は胸元から、クシャクシャに丸められた数枚のA4用を震えるで差しした。
亮平がその面を広げた瞬、界が真っ赤に染まった。
『産持分譲渡契約 兼 債権放棄』
『私、宮崎苗は、本物件の共持分(分の)を、義妹・宮崎由紀へ無償譲渡し、今の管理権を義母・宮崎貴子へ全面委任することに同します。これに違反した、宮崎美の親権を放棄し、速やかに退します』
末尾には、苗の署名捺印欄が空のまま残されていた。
妹の借、母の画策、そして苗の実からの援助で建てられたこのを、丸ごと乗っ取るための周到な罠。
貴子と由紀の企みの全貌が、物置の暗がりのでのに晒された瞬だった。