"出張先で娘が「物置で寝てる」と泣いた夜" 第4話
夜けの急襲と異様な跡
午分、定刻通りに羽田空港へ着陸した旅客のドアがくや否や、亮平は通をすり抜けてした。荷物預けはしていない。スーツケースを引いてターミナルを疾し、タクシー乗りへび込んだ。
「川崎麻区まで! 首都を使って、番いルートで頼みます。急いでいるんです!」
朝の首都速は、すでに通勤ラッシュの渋滞が始まりかけていた。の列が速度を落とすたび、亮平の臓は狂おしいほどの焦燥に焼かれた。メーターの数字ががる速度よりも、腕計の針がむ速度の方が遥かに速くじられる。
午分。
タクシーは宅の坂を登り、見慣れた階建ての戸建て宅ので急止した。
亮平がを面し、苗のパート収入とわせてローンを組んでに入れた、自のマイホームだった。壁は品なベージュ、向きの庭には美が植えたチューリップの球根が並んでいる。
しかし、その庭先にった瞬、亮平の全に異様な悪寒がった。
玄関のに、見慣れない型のワゴンが堂々と横付けされていたのだ。練馬ナンバーのそのは、妹の由紀(歳)の夫のだった。
亮平は音を殺し、スーツケースを扉の脇に置いた。インターホンには指を触れず、ポケットから鍵を取りす。
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指先が震え、鍵穴に差し込む際にさく属音が鳴った。
ガチャリ。
静かにドアをけ、玄関へと滑り込む。
その瞬、亮平の目にび込んできた景に、胸の奥で何かが真っ赤に破裂した。
玄関のタタキの央には、級ブランドのレディースパンプスと、学学の男の子用のカラフルなスニーカーが、脱ぎ散らかされたままが物顔で鎮座していた。
そして、その脇の暗い駄箱の隅。除けのゴムマットの端に、追いやられるように押し込まれていたのは——妻の苗の履き古したスニーカーと、美の通学用のさな靴だった。
まるで、最初からこののではないかのように。片隅に蹴ばされ、埃をかぶったの靴。
「……っ」
息を呑み、亮平は靴を脱いで廊へがった。
のには、微かに甘いの匂いと、朝の残飯のような脂っこい匂いが漂っていた。リビングの引き戸が数センチいている。隙から覗き込むと、ダイニングテーブルのには、べ散らかされた級デリの惣菜パンの容器や、みかけのペットボトルが乱雑に散らばっていた。
ソファーのでは、妹の由紀が分い羽毛布団にくるまり、をけてい寝息をてていた。その傍らのには、由紀の歳になる息子・翔太が、美の勉机から勝に持ちしたとわれるスケッチブックを引き裂き、ゲームを握りしめたまま眠りこけている。
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客を覗くと、由紀の巨なスーツケースが全のままを占領し、から鮮やかなや化粧品が溢れしていた。
まるで、ここが自分たちの持ちであるかのように、無防備で傲な眠りがそこにあった。
亮平は階へと続く階段に線を向けた。
階の主寝。亮平と苗が結婚当初に選び、切に使ってきたセミダブルのベッドがある部だ。音を忍ばせて階段をがり、主寝のドアノブにをかける。
ゆっくりとドアをけると、微かに加湿器の蒸気がち込める温かな空気ので、母の貴子が、亮平たちが使っていた極の羽毛布団をまでかぶり、穏やかな寝息をてて熟していた。
そこには、妻も、娘もいなかった。
自分たちのでありながら、彼女たちの居所は、階のリビングにも、客にも、階の寝にも、片たりとも残されていなかったのだ。
亮平は主寝のドアを静かに閉め、階へとりた。
胸の奥で、激しいりが静かに、しかし絶対零度の氷となって凝固していくのをじていた。
廊の突き当たり。洗面所の横にある、暗く閉ざされたドアのにつ。
『物置』
ドアのノブには、側から太いビニール紐が幾にも巻き付けられ、閉レバーが物理に固定されていた。
さらに、その扉ののたい板張りのに、見覚えのあるさな布切れが落ちていた。
角が擦り切れ、汚れたピンクのフリースブランケット。美が赤ん坊の頃から肌さず持っていた、お気に入りの膝掛けだった。
それが、まるでゴミのように、扉ののに打ち捨てられていた。
亮平は膝をつき、そのブランケットを拾いげた。指先に触れた布は、真の氷のようにたくえ切っていた。
「……美……苗……」
亮平は震えるで、ノブに巻き付けられていたビニール紐を引きちぎった。