"出張先で娘が「物置で寝てる」と泣いた夜" 第1話
ののコール音
旬の札幌は、初をに控えた凍てつく夜がビルのを吹き抜けていた。本州とは質の異なる底えのする寒気に、く々は様に襟元をかき抱き、にへと吸い込まれていく。計台の針はすでに午を回り、濡れたアスファルトには歓楽のネオンサインが寒々しいの尾を引いていた。
歳の宮崎亮平は、建材メーカーの営業課として、の半分を方張に費やす過酷な活を何も続けていた。このも内の主取引先との接待を終え、ようやく宿泊先であるビジネスホテルのシングルルームへと辿り着いたところだった。いウールコートの肩を払い、カードキーをドアノブのセンサーにかざす。無質な子音とともに解錠され、の乾いた空気が喉を刺激した。
鞄をデスクの脇にろし、ネクタイの結び目を緩めたその瞬、コートの内ポケットでスマートフォンがく震え始めた。
画面に浮かびがった発信者表示に、亮平はわず息を呑んだ。
『美』
学、歳になる娘の名だった。普段ならとうに寝静まっている刻である。妻の苗ならともかく、娘自の端末からこんな夜に直接着信が入ることなど、これまで度たりともなかった。
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「……美か? どうしたんだ、こんなに」
通話ボタンをスワイプし、努めて穏やかな声で語りかけた。しかし、受話器の向こうから返ってきたのは、引き裂かれそうなほどさく、刻みに震える呼吸音だけだった。
「パパ……」
凍てつくようなか細い声だった。周囲を気にし、音をてることを極度に恐れているのが、受話器越しにも痛いほど伝わってくる。
「美、どうした? お腹でも痛いのか? ママはくにいるのか?」
「パパ……らないでね。らないで……」
娘の唇が震えているのが見えそうだった。亮平の脳裏に、張に発するの苦い記憶が、鋭い棘となって蘇った。
半、父をくして独り暮らしになった実母の貴子(歳)が、「寂しくて夜も眠れない」と涙ながらに同居を懇願してきた。結婚来、事と育児を堅実に支えてくれていた妻の苗は、戸惑いながらも「お義母さんがなら、しばらく緒に暮らしましょう」と受け入れてくれた。しかし、同居が始まった途端、母の態度は豹変した。台所の使い方から掃除の順、美の教育方針に至るまで自分のやり方を押し付け、苗がしでも見を言えば「嫁の分際で」「親孝者」と執拗に責めてた。
『あなた、お義母さんが留守に私のスマートフォンを勝に見ようとするの。美にも、たいことばかり言って……』
苗は何度も亮平に助けを求めていた。
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だが、仕事のプレッシャーと張のさに忙殺されていた亮平は、そのたびに決まり文句で逃げていたのだ。
『わかった、俺から母さんに言っておくよ。でも母さんも悪気があるわけじゃないんだ。悪いけど、もうしだけしてくれないか』
波をてたくない。親孝な息子とわれたくない。その浅ましい自己保が、妻を、そして幼い娘を孤独の檻に閉じ込めていた。
「パパ……おばあちゃんがね……」
美の言葉が途切れ、奥から微かな擦れの音が響いた。誰かが美の体を抱きしめている気配。妻の苗の声が、絶望を押し殺した掠れ声で混ざり込んできた。
『美、もう切りなさい……見つかったら、また……』
「美! 苗! 何があったんだ、はっきり言ってくれ!」
亮平がホテルの部で声を荒らげた。その叫びに背を押されたように、美が堰を切ったように泣きじゃくりながら告げた。
「私とママを、物置きで寝かせるの……! 暗くて、寒くて……虫の音がして怖いよ、パパ……! く帰ってきて……!」
背筋を氷の柱で貫かれたような衝撃が、亮平の全を直させた。