"姉の身代わりで嫁いだら、冷酷当主の本命でした" 第4話
見えない働き
静が持っていた篠原の帳簿は、冊だけではなかった。
過分の取引資料の写しが別の箱に収められていた。澄乃が訂正した数字、仕入れ先を変更すべきだと余にいた見、庫の偏りを示すさな印まで、静は驚くほど細かく覚えていた。
「これをいたは誰だと、篠原の主に聞いた」
静が言った。
「父は何と?」
「番だと言った」
澄乃は苦笑した。
いかにも父らしい。
娘が帳簿をえているとられれば、商の主として面目がたないとったのだろう。澄乃の働きは、いつものだけで利用され、へるには別の誰かの功績にされた。
「番本にも聞いた」
「え?」
「否定した。自分にはこんな理はできない、と」
静は淡々と続けた。
「それで余計に気になった」
澄乃は胸の奥に奇妙な覚を覚えた。
これまで誰にも見つけてもらえなかったものを、会ったこともなかった男が帳簿の文字だけで見つけていた。
しかし、まだ分からないことがある。
「それと縁談に、何の関係があるのですか」
静はすぐには答えなかった。
「まだ話す必はない」
「どうしてです」
「確かめたいことがある」
澄乃は満だったが、それ以追及しなかった。
その頃、氷の商いではつの問題が起きていた。郊の倉の利益が半ほどからしずつ落ちていたのだ。
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きな損ではないため誰も刻に考えていなかったが、澄乃は帳面を見て違を覚えた。
商品の数は変わらない。
売値もきく変わらない。
それなのに、毎しずつ経費が増えている。
「運送料です」
澄乃は分の帳簿を並べた。
「件ずつ見ると分かりません。でも半分を並べると、同じ距なのにしずつがっています」
静と支配が確認すると、運送を任せていた業者が請求を増ししていたことが判した。
額は度につき僅かだった。
だから誰も気付かなかった。
しかし半分を計すると、かなりの額になる。
静はすぐに業者を呼び、契約を見直した。
その夜、仕事部で澄乃に言った。
「助かった」
たった文字だった。
それでも澄乃は返事が遅れた。
篠原では違いを見つけても、「それくらい当然だ」と言われていた。役につことは義務であり、謝される理由にはならなかった。
「どうした」
「いえ……お礼を言われることに慣れていなくて」
静は眉を寄せた。
「働いた者に礼を言うのは普通だろう」
普通。
その言葉が澄乃にはかった。
婚礼の取りが正式に決まったのは、それからもなくのことだった。
質素にいたいという静の向で、招く者はなかった。篠原にもらせは送ったが、父は「が忙しい」として来ず、美津と玲子も姿を見せなかった。
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澄乃は驚かなかった。
婚礼の夜、静は彼女に無理に夫婦らしい振るいを求めなかった。
「ここに慣れるまで、自分の部を使えばいい」
それだけだった。
数、篠原からきな箱が届いた。
美津からだった。
には古い類と、澄乃が蔵で使っていた物が乱雑に詰め込まれている。
が枚入っていた。
《もうこちらに置いておく必がない物です》
澄乃はしばらくその文字を見つめた。
自分の物を返したのではない。
自分というを、から片付けたのだ。
静は何も言わず、その箱を見ていた。
夜、澄乃がで類を理していると、静が古い帳面を冊持って現れた。
「これも、おの物だとう」
それは澄乃が歳の頃、初めてでまとめた帳面だった。
「なぜ……」
「篠原の資料に紛れていた」
澄乃は懐かしい文字を指でなぞった。
静は隣に座った。
「おのでは、これをいたに何も残さなかったらしい」
しばらくして、彼は静かに続けた。
「だが俺は、残すつもりだ」
「何をですか」
「おが働いた証拠をだ」
そのを澄乃がるのは、もうし先だった。
そして同じ頃、篠原のでは、澄乃がいなくなった響が静かに表れ始めていた。