"姉の身代わりで嫁いだら、冷酷当主の本命でした" 第3話
同じ机の向こう側
氷へ来てほど経つと、澄乃は毎朝決まった刻に静の仕事部へ向かうようになった。
婚礼についてはまだ正式な取りを決めていなかったが、敷の者たちは既に彼女を「澄乃様」と呼んでいた。玲子の名で押し通す必はないと静が言い、篠原にも「本の名で婚礼をめる」とだけ伝えたらしい。
父から返事は来なかった。
その代わり、美津からいが届いた。
《余計なことは話さず、うまくやりなさい。こちらに迷惑を掛けないように》
澄乃は度読んだだけで、引きしの奥へしまった。
自分たちが代わりを送り込んでおきながら、迷惑を掛けるなという。以ならその言葉に胸を痛めただろう。しかし氷へ来てから、澄乃のでしずつ何かが変わり始めていた。
静は数がなかった。
午はそれぞれ帳面を読み、必なだけ見を交わす。昼になると使用が茶を運び、また仕事に戻る。夕方には番や支配が報告に来て、静が判断をす。
酷という噂がどこからたのか、澄乃には分からなくなっていた。
確かに静は甘くない。数字をごまかした者には厳しく問いただし、同じ失敗を繰り返した者には仕事を替えさせた。しかし、事も聞かずに追いすようなことは度もなかった。
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ある、倉の若い使用が荷を傷めた。
支配は解雇を言したが、静は原因を尋ねた。すると、夜通し病気の母親を病したあと仕事へ来ていたことが分かった。
「休ませろ」
静はそう言った。
「は?」
「引くな。だが戻ったら配置を変える。今の仕事ではまた事故を起こす」
たいようで、必な部分だけは守る。
澄乃はその判断を黙って見ていた。
「何だ」
静に気付かれた。
「いえ」
「言いたいことがある顔だ」
澄乃は迷った末に言った。
「噂と違うといまして」
「どんな噂だ」
「失敗した使用は、そののうちに追いすと」
静のが止まった。
「誰が言った」
「町のが」
「そうか」
それだけだった。
否定もしなければ弁解もしない。
夜になると、は々遅くまで仕事を続けた。
がまるにつれ、仕事部の空気もえるようになった。ある夜、澄乃が数字をき写していると、肩にふわりとみが掛かった。
振り返ると、濃紺の羽織が掛けられていた。
静は何も言わず、自分の席へ戻っている。
「これは……」
「寒いだろう」
「静様は?」
「俺は平気だ」
澄乃は羽織のをわせた。
布にはまだ微かなぬくもりが残っていた。
酷なだと、誰が言ったのだろう。
そんな考えが浮かび、自分でも驚いた。
数、澄乃は静から冊の古い帳面を渡された。
「これも見てほしい」
表を見た瞬、澄乃のが止まった。
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それは氷の帳面ではなかった。
篠原ので使われていたものと同じ、同じ綴じ方だった。
く。
見覚えのある数字が並んでいた。
、澄乃自がいた帳簿だった。
「どうして、これがここに……」
静は答えなかった。
澄乃は頁をめくった。仕入れ価格の横にさく付けた印も、計算を直した跡も、そのまま残っている。
「篠原から借りたのですか」
「商談のに見せてもらった」
「商談?」
静は机の向こうから、澄乃がいた文字を指でなぞった。
「、篠原と取引を検討した」
澄乃はらなかった。
父から何も聞かされていない。
「この帳簿を見て、俺は妙だとった」
「何がですか」
「主の字でも、番の字でもなかった。数字の理の仕方も違う。それなのに、の利益が落ち始める期には必ず、この跡の修正が入っていた」
静の指が、澄乃のいたさな注記ので止まった。
「誰がいたのかりたくなった」
澄乃は言葉を失った。
氷へ来るから。
静は、自分の文字を見ていた。