"三年前に署名させた離婚届" 第6話
表面は平穏な常を取り戻し、浮気騒からのが流れた。
私も裕も、まるで過の過ちなど最初からしなかったかのように、何気ない笑顔を交わし、々の活を営んでいた。
しかし、それは氷のに築かれた偽りの平に過ぎなかった。
どれほど優しく接されても、どれほどの言葉を囁かれても、私のの奥底には常に徹な観察者の差しが潜んでいた。残業の連絡が入るたび、スマートフォンの通音が鳴るたびに、のあの悪のような記憶がチクリと胸を刺す。笑顔の仮面を張り付けながら、私はのどこかでずっと、度目の裏切りが訪れるその瞬を待ち構えていたのかもしれない。
そんな私の張り詰めた予を裏付けるかのように、裕の仕事はますます忙を極め、頻繁に張へかける々が続いていた。
そしてあるの夜、帰宅した裕が、隠しきれない揚を全から漂わせながらリビングに入ってきた。その取りは軽く、目元はこれ以ないほど浮ついている。
「ナナ、聞いてくれよ! すごいことになったんだ!」
私は台所でを止め、濡れた指先をタオルで拭きながら振り返った。
「どうしたの? そんなに興奮して」
「今度の張、期でにくことになったんだよ!」
「……? 期って、今までそんなのなかったじゃない」
広告
「そうなんだよ! うちの部署でずっとめてた型のインフラ案件が、ついに本格始することになってさ。なんと、俺がプロジェクトリーダーに抜擢されたんだ!」
「へえ……すごいじゃない。おめでとう」
私は努めて穏やかな笑顔を作り、祝福の言葉をにした。しかし、胸の奥底で警報器がけたたましく鳴り響くのを止めることはできなかった。
「それで……期って、どれくらいの期なの?」
「なくとも、ヶは本に帰ってこれないとう。現の拠点に張り付いて、プロジェクトのちげを指揮しなきゃいけないからさ」
「ヶも……」
笑顔を保ちながらも、私ののは激しい暗に覆われていた。
まただ。また、この男はあのと同じ顔をしている。
成功への揚だけではない。妻の監の目が届かないい異国のへけるという、あからさまな解放と浮かれ気分が、その全からだだ漏れになっていたのだ。
張の準備をめる数、裕の異様な浮かれぶりはににエスカレートしていった。
「現の料理って、どんなのがあるんだろうな? 美いのかなあ」
私に向かって旅の楽しみを語りかけながらも、彼のは常にスマートフォンの画面に張り付いていた。指先を刻みにかしてメッセージを打ち込み、画面を見つめてはニヤニヤと締まりのない笑みを浮かべる。
広告
張のビジネスマンの緊張など微もなく、まるで恋とのバカンスを待ちにしている学のようだった。
そして発の朝。
裕は真しい型のスーツケースを玄関にろし、えられた髪にをやりながら、爽やかな笑顔を私に向けた。
「じゃあ、ってくるな。ヶ、にして寂しいいをさせるかもしれないけど、しっかり結果をしてくるからさ」
「ええ、気をつけてね。体にだけは気をつけて」
「あ、そうだ。あっちにったら差もあるし、現の察で波の届かない所にくこともいからさ。連絡が遅くなっても、変に配すんなよ」
「……分かったわ」
予防線を張るようなその言を聞き逃すはずがなかった。私は平静を装って彼を見送り、玄関のドアが閉まる音を静かに聞いた。
裕はへとびった。
私も自分の仕事に没し、気を紛らわせようとしたが、数が経過しても胸のざわめきは収まるどころか増していく方だった。
彼からの連絡は、あまりにも自然極まりなかった。
こちらから業務のに「無事に着いた? 現の様子はどう?」とメッセージを送っても、何も既読がつかない。半以経ってようやくついたとえば、返ってくる返信は異様なほどく、素っ気なかった。
『波悪い。忙しいからまたで』
『解。
問題ない』
普段の裕なら、にけば現のホテルの写真や事の写真を何枚も送りつけ、自分の活躍を文で自してくるはずだった。