"三年前に署名させた離婚届" 第5話
線を往往させ、脂汗が額からタラタラと流れ落ちていく。その無様な沈黙こそが、何よりも雄弁に真実を物語っていた。
私は見は氷のように徹な態度を装っていたが、内の臓は張り裂けんばかりに激痛を訴えていた。
「ねえ、裕。あなた、あの女と浮気してたのね?」
「ち、違う! ただの職の輩で、ちょっとみにっただけで……!」
「みにっただけの相に『好き』って言われて、自分から『ミサとならどこでも楽しめそうだ』なんて返信するの? ホテルの部でバスローブを着て、でを繋いで歩くのが、ただの職のみ会なの!?」
「それは……その……」
「浮気でしょう。言い逃れなんてできるわけがないじゃない!」
追い詰められた裕は、を抱え、に額を擦り付けるようにして崩れ落ちた。
「……ごめん。本当に、ごめん……!」
そのけない言が、決定打だった。
私ので、の結婚活で積みげてきた信頼のすべてが、音をてて々に砕け散った。激しいりと吐き気がこみげ、私は寝へ駆け込んでドアに鍵をかけた。ベッドに倒れ込み、枕に顔を押し付けて、声のない慟哭にを震わせた。涙が枯れ果てるまで、朝のがカーテンの隙から差し込むまで、私はで泣き続けた。
翌朝、私は腫れがった目をでやすと、を完全に遮断して事務作業に取り掛かった。
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昨夜保した膨なスクリーンショットをパソコンへ転送し、系列順に並べ替えて詳細なキャプションをつけた。ホテルの付と、裕が「張」や「残業」と嘘をついてを空けていた程とを付きわせ、完全な証拠資料ファイルを作成した。
裏切られていた々のさを目の当たりにするたびに胸が抉られたが、泣いていても現実はミリも好転しない。私は淡々と、徹に作業をめた。
数、私は休暇を取り、休の昼がりに裕をリビングのテーブルへと呼びした。
テーブルのには、プリントアウトした分い証拠の束が置かれている。
「裕、話があるわ」
「……何?」
「証拠よ。あなたの貞為の、かぬ証拠のすべて」
裕は類のを瞥したきり、喉を鳴らして俯き、沈黙した。その肩はさく縮こまり、かつての自信に満ちたエリートの面はどこにもない。
「もう、あなたを許すことはできない。これ以、私を傷つけないで」
私が静かに告げると、裕は子から転がり落ちるようにしてに正座し、私の元に両をついてに額を擦り付けた。
「頼む、ナナ! 待ってくれ! 本当に、の底から反省しているんだ! あの女とはもう度と会わない、連絡も切断つ! 会社でも部署を変えてもらうように掛けうから! もう絶対に度と裏切らないから、婚だけは勘弁してくれ!」
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必に涙を流し、許しを乞う夫。しかし、私のはすでに凍てついていた。
「言い訳はらないわ」
私はバッグの底から、あらかじめ用しておいた枚の類を取りし、裕の目のののに滑らせた。
「これに、サインして」
に置かれた緑の枠線の用を見て、裕の息が止まった。
「ひ……婚届……?」
「そうよ。度と浮気はしないんでしょ? 自分の過ちをから反省しているのなら、今すぐここに署名と捺印をして。この婚届は私が預かっておくわ。もし次に、あなたがしでも怪しいをとったり、度目の浮気をしたりした瞬、私は何の相談もなく、これを役所に提する。即座に婚成よ。それが、私がす再構築の唯の条件よ」
裕は顔を引き攣らせ、震えるでペンを握りしめた。
「わ、分かった……くよ。くから……!」
彼は平謝りを繰り返しながら、氏名、、本籍を震える文字で記入し、実印をしっかりと押印した。
こうして、夫の署名捺印が完した婚届は、私のによって厳に保管されることとなった。
騒の、裕はその恐怖を忘れたのか、あるいは反省のポーズに満したのか、表面には以と変わらぬ穏やかな夫としての活に戻っていった。
だが、私のに穿たれた巨な亀裂が塞がることは決してなかった。
「次はない」
。
その絶対な掟をに刻み込んだあのから、私は夫というを、度と無条件に信じることはできなくなっていたのだ。