"母の遺品と千万円の組紐" 第11話
すべての点と線が、残酷なまでに本に繋がった。
さらに、数にさんから聞かされた真実は、俺のを完全に打ち砕いた。
「あんたの奥さんがくなったね、幸恵さんは本当は、すぐにでもんでってあんたのの回りの世話をしたかったんだよ」
「え……? でも母は、自分からは滅に来てくれませんでした」
「それはね、わざとだよ」
「わざと……?」
「男つで娘を育てるって、歯をいしばって覚悟を決めたあんたのプライドを、幸恵さんは何より尊したかったのさ。『今私がてったら、あの子の決を邪魔してしまう』ってね。だから、あんたから頼まれただけ伝って、それ以は歩引いて、くからじっと見守ることにしたんだよ。あんたがで苦しんでいるのを分かっていて、を差し伸べられないのが、どれほど辛かったか……」
俺は声をげて泣いた。
母が淡だったのではない。俺のとプライドを守るために、母は自らのを押し殺し、から祈り続けてくれていたのだ。
自分のことしか見えていなかった愚かな息子を、母はずっと、無償ので包み込んでくれていた。
寝静まったすみれの寝顔を見つめながら、俺は母の遺品箱のに座った。
もう度、あのノートをく。
番最のページ。『すみれの』とだけかれ、空になっていたあのページ。
広告
母は、くなる直、すみれのために何を遺そうとしていたのか。
俺は段ボール箱の底にを伸ばした。まだけていなかった番底のの包みを引きす。
震えるで包みをくと、から現れたのは――途で組みかけのまま針が刺さった、本の華やかな組紐だった。
淡い桜のに、澄み切った朝の空のような青い絹糸が織り込まれている。
包みには、母の震える跡でかれたメモが添えられていた。
『すみれが番ぶで の祝いに』
息が止まった。
母は、すみれの歳ののために、この帯締めを組んでいたのだ。病の痛みに耐えながら、命が尽きる最の瞬まで、孫のれ姿を見て糸を繰っていたのだ。
さらに押入れの奥を探ると、もうつのきな包みが見つかった。に入っていたのは、仕てかけのさな祝い着だった。反物を裁断し、縫いで針針縫いめられていた着物。
すみれが目を覚まし、その着物を見て歓声をげた。
「あ! これ、すみれのお着物だ! ばーばがね、『歳になったらこれを着てお参りにこうね』って、指切りげんまんしたの!」
母と娘のの、秘密の約束。
俺はそのに崩れ落ち、組みかけの帯締めを胸に抱きしめて号泣した。
古臭いと切り捨てられたその仕事で、母は最の最まで、俺の娘の未来を彩ろうとしてくれていたのだ。
広告
「母さん……ごめん……本当にごめん……!」
涙で濡れる俺の肩に、すみれがそっとさなを置いた。
「パパ、泣かないで。ばーばのお紐、すみれ好きだよ」
俺は涙を拭い、娘をく抱きしめた。
そして、ので固く誓った。
この帯締めと祝い着を、俺ので必ず完成させる。母が遺した途切れた糸を、俺が繋ぐのだと。
翌、俺は紗英さんとさんに未完成の品を見せ、自らの決を伝えた。
紗英さんは目を見張り、力く頷いてくれた。
「やりましょう、輔さん。まであとヶ。お母様のいを形にするために、私も全力でお伝いします」
「私もだよ!」とさんが腕をまくった。「この界隈のお針子仲に声をかければ、仕てなんてあっというさ。幸恵さんの恩返しをさせておくれ!」
そのから、俺の壮絶な挑戦が始まった。
昼は求職活と事をこなし、夜になると母の遺した丸台に向かって正座した。
母のノートに記された微細な記号を解読し、糸を指に巻き付ける。だが、最初は糸が絡まり、力加減が分からず、組み目は波打って歪んでしまう。
「パパ、っぴー!」
横で見ていたすみれが笑う。
「ばーばはね、糸を引っ張るんじゃなくて、優しく撫でるようにするの。『糸さんもきてるんだよ』って言ってたもん」
「糸もきてる、か……」
歳の娘に教わりながら、俺は筋ずつ糸を交差させていった。
紗英さんも繁く通って指導してくれた。「力で引いては駄目です。