"母の遺品と千万円の組紐" 第2話
代の若い頃、婦の販売員として流の最先端を追うことにだった俺は、座敷で黙々と糸を繰る母の元を見て、「そんな古臭いもの、今誰も使わないよ」と吐き捨てるように切り捨てたことがあった。母はその、何も言い返さず、ただ静かに微笑んでいただけだった。そのの苦い記憶と拭えない負い目だけが、母が骨になってしまった今もなお、の奥底で疼き続けている。
仏壇にをわせ、線の煙を見つめても、母に何を語りかければいいのか分からなかった。
それよりもを占領していたのは、に迫った賃の支払いをどう面するかという、差し迫ったの問題だった。元に残っているのは、母が遺した古い荷物ばかり。
ふと、仏壇の脇に何気なく置いてあった、反の古い反物の包みに線が吸い寄せられた。をいてみると、そこには驚くほど澄んだいの、質な絹の反物が横たわっていた。素の目で見ても、の古布とはらかに艶が違っている。これなら、リサイクルショップに持っていけばしはまとまったになるのではないか。そうい、包み直して箱からしておいたのだ。
ある休の朝、俺はその反物と、その脇に添えられていた本の細い組紐を呂敷に包み、をようとした。
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玄関で靴を履いていると、かける気配に気づいたすみれがトテトテとりで駆け寄ってきて、俺の抱えた包みをじっと見げた。
「パパ、それ……ばーばの事なものでしょ? 売っちゃうの?」
すみれの澄んだ瞳に見つめられ、俺は喉を詰まらせた。
「……うん。ごめんな、すみれ。ばーばが切にしていたものだってことは、パパも分かってる。でもな、今はおがどうしても必なんだ」
「ばーば、らないかな……?」
「丈夫だ。すみれとで暮らしていくためだって言えば、ばーばもきっと許してくれるよ」
「本当に?」
「本当だよ。ばーばは、いつだって優しいだっただろう」
そう言い聞かせながらも、自分の声がどこかけなく震えているのを自覚していた。
本当に許してくれるだろうか。自分の甲斐なさのせいで母の遺品を放すことを、母はどううだろうか。自分でも確信など持てなかった。けれど、来週の米を買うすら許ない俺には、背に腹は代えられない。仕方がないんだと、自分に言い聞かせるしかなかった。
「……じゃあ、すみれも緒にく」
「え?」
「ばーばのもの、ちゃんと最まで見ててあげるの」
さな胸を張り、ぎゅっと唇を結ぶ娘の姿に、俺は胸を突かれた。
「そうか。じゃあ、緒にこうか」
すみれの温かいさなを握り締め、俺たちはえ込むへと踏みした。
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最初に向かったのは、駅のロータリー沿いにあるのリサイクルショップだった。
内には雑な古着やが並び、騒がしいBGMが流れている。カウンターに呂敷を広げると、アルバイトの若い男性員が、反物の端を指先でつまんでちらりと見ただけで、すぐに線を逸らした。
「ああ、古い着物ですね。こういう昔の布は需がないんで、ほとんど値段つかないんですよ」
「そうですか……でも、母がとても事に保管していたものでして、質な絹だとうんですが」
「まあ、お気持ちは分かりますけどね。うちも商売ですから。買い取れるとしても、これ全部で数百円ってところですね」
「もうし、なんとかなりませんか……?」
「これが精杯ですね。嫌ならを当たってもらっても結構ですよ」
提示された額は、束文どころか、賃にも満たないような銭だった。これではヶ分の賃はおろか、数分の費にすらならない。何より、母が涯切に慈しんできたものを、こんな投げやりな態度で端に変えて放していいはずがなかった。
俺は湧きがる惨めさとりを押し殺し、反物を呂敷に包み直してをた。
「パパ、売らないの?」
駅の歩にて、すみれが見げてきた。
「……ああ。あそこはやめておこう」
断ったものの、次はどこへ持っていけばいいのか見当もつかなかった。
男つの暮らしので、着物や装の世界のことなど、俺は何ひとつらずにきてきたのだ。