"愛人と帰国した夫、30分の猶予" 第8話
泳と、英会話と、ピアノをやらせよう!」
そう息巻いて、週に回もの習い事のスケジュールを勝に組みげた。折しも憲吾の会社にフレックスタイム制が導入されたこともあり、平の習い事の送り迎えはすべて憲吾が担当することになった。
義母はそんな息子を見て、目を細めて私に当てこすりを言った。
「憲吾は本当にで派な父親だよ。仕事ばっかりして庭を顧みない誰かさんとは違いだねえ」
しかし、そのつの習い事の莫な謝を、毎必に面して支払っているのが誰なのか、義母は都よく忘れているようだった。
ある、私はリビングで宿題をしていた翔太に尋ねてみた。
「翔太、習い事は楽しい? 無理してない?」
すると、まだ幼かった翔太は無邪気に笑って答えた。
「うん、楽しいよ! 先たちもみんな優しいし……それにね、パパがすっごく楽しそうなんだ」
「パパが……?」
父親が息子の成をんでいるのだろうと、そのの私は微笑ましく受け止めていた。だが、憲吾が忙で私が代わりに付き添いにった際、違の正体は掴めないままだった。
翔太の泳ぐ姿や英語を話す姿を見るのは誇らしかったが、憲吾が浮かべていたという「楽しそうな顔」とは、何かが違うような気がしていた。
私の曇った表に気づいたのか、翔太はさなを私の膝に乗せて言った。
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「ママ、僕がピアノを弾いてあげるね!」
翔太はさな指を鍵盤に乗せ、習いたてのおぼつかないつきで、い練習曲を懸命に弾いてくれた。拙い音だったが、そこには母を元気づけようとする息子の、純粋で澄み切った優しさが満ちていた。
胸がくなり、この子の笑顔を何があっても守り抜こうと、私はので誓った。
しかし、その温かなを切り裂くように、義母が居の引き戸をガラリとけて鳴り込んできた。
「ちょっと! うるさいよ! テレビの音が聞こえないじゃないか! くそなピアノなんてで弾くんじゃないよ!」
義母の声によって、優しいピアノのは無残に打ち切られた。
翔太は歳のになった現も、ピアノだけはに続けていた。
泳と英会話は学の学で辞めてしまったが、ピアノだけは、度も投げすことなく続けてきたのだ。で練習すると義母がヒステリックに騒ぎてるため、翔太は放課、の音楽のグランドピアノを借りて毎練習しているという。内では「放課に響く美しいピアノ」として、ちょっとした名物になっているらしかった。
そので、ピアノ教の担当講師は何も入れ替わった。
最初の先は代の落ち着いた女性だったが、そのも配の男性や若い男性など、目まぐるしく変わった。
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そして現、翔太を指導しているのは、名音のピアノ科を首席で卒業したばかりの、若く美しい女性講師だった。卒業記の全国コンクールで優勝を果たしたほどの腕で、将来の演奏としてのを嘱望されながらも、の指導にを燃やしているのだと翔太から聞いていた。
翔太は芸術方面だけでなく、パソコンのプログラミングやネットワーク構築にもい関を示していた。文系の私にはさっぱり分からない専用語をすらすらとにする姿を見て、そこは父親の理系な才能を受け継いだのだろうと誇らしくっていた。
しかし、憲吾は翔太のそうしたITへの興には切目もくれず、ただ「ピアノを頑張れ」と執拗に発破をかけ続けていた。
学の頃は「英語を極めろ」、学の頃は「泳で番になれ」とうるさく指図していた夫が、今はピアノの腕ばかりを気にしている。
結局、義母はこのに居座り続けてが経過していた。
今やのをが物顔でのし歩き、私に対する言や嫌がらせは常茶飯事となっていた。
憲吾も相変わらず、計には銭の活費も入れず、に何度もみ歩いては朝帰りを繰り返していた。
若きに憧れ、して結婚したはずの男だったが、を過ぎた今となっては、なぜこの男と緒に暮らしているのか、その理由すら見失いかけていた。