"愛人と帰国した夫、30分の猶予" 第5話
叔父への返済の目処がようやくち、昼の仕事の与だけでも細々と活していける見通しがったからだ。
を辞める最の夜、憲吾は束を持って現れ、をたの夜で改まって告してきた。
「咲子ちゃん。俺と付きってほしい」
胸が鳴った。しかし、私は唇を噛み締め、首を横に振った。
「……ごめんなさい。私には、まだ叔父への借が残っています。誰かとお付きいするなんて、そんな資格はありません」
もし借がなければ、今すぐにでも彼の胸にび込みたいほど惹かれていた。だが、過の荷をに背負わせるわけにはいかなかった。
私の痛な告に対し、憲吾は破顔して言った。
「そんなことか! 俺は咲子に借があろうが何だろうが、全然気にしないよ。むしろ、たったで両親のだったを守り抜いた咲子のことを、から尊敬してるんだ」
憲吾は自分ののを語ってくれた。彼もまた、幼い頃に父親をくし、女つで苦労して育ててくれた母親をく敬しているのだという。
「だからさ、親のために必になってを守った咲子の気持ちが、痛いほどよく分かるんだよ」
族のをるこのとなら、きっと温かい庭を築いていけるに違いない。
頑なに閉ざされていた私のの扉が、完全にいた瞬だった。
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私たちは交際をスタートさせ、の穏やかな逢瀬を経て、結婚することになった。
そして歳の、男の翔太を産した。
くに肉親を失っていた私にとって、自分自の血を分けた族ができるということは、言葉に尽くせぬほどの至福だった。憲吾の母親――義母も、結婚と翔太の誕を表向きはんでくれた。
借はまだ残っていたが、理解のある夫と、使のようにらしい息子に恵まれ、私は世界で番幸せな女だと信じて疑わなかった。
今にしてえば、夜ので無数の男たちを見てきたはずのホステスたちが目で息を呑むような美貌を持った男が、女性に自由しているはずがなかったのだ。
目のの甘い言葉と優しい笑顔を鵜呑みにした私が、あまりにも愚かで無だったのだ。
結婚して数、私はその恐ろしい真実に何つ気づかないまま、平穏という名のので暮らしていた。
結婚が決まった際、居をどうするかという話しいの席で、私は実の扱いについて慎に切りした。
私自、自分が結婚できるなどとはっていなかったため、両親の残したこのでで暮らすつもりでいたのだ。もし憲吾が嫌がるなら、を誰かに賃貸として貸しし、別の所にアパートを借りることも覚悟していた。
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しかし、憲吾は事も無げに言った。
「何を言ってるんだよ。咲子のは、俺のでもあるんだからさ。咲子が必で守ってきた切なは、俺にとっても宝物だよ。んで同居させてもらうよ」
その言葉に、私は胸を撫でろした。
このは、域の宅のでも際目を引く、敷百坪を超える豪邸だった。両親は、晩にまれた娘である私を、緑豊かで広々とした空でのびのびと育てたいと願い、資材を惜しまずに建てたのだ。
唯の難点は、閑静な宅のい坂を登り切った、丘の頂に位置していることだった。駅からの徒歩移には々骨が折れるだったが、バスの便は充実しており、私の通勤には何の支障もなかった。憲吾も「俺はマイカー通勤だから全然平気だよ」と笑ってくれた。
婚活が始まったは、吹き抜けのリビングと無垢材のがよく、憲吾もいに気に入った様子だった。部数がいため、自分専用の斎を持てるのが嬉しいらしく、まるでのようにはしゃぐ夫の姿を見て、私はからこのを残してよかったと堵していたのだ。
歯が狂い始めたのは、翔太を妊娠した頃からだった。
夜のアルバイトを辞めたことで世帯収入が減ったため、私は妊娠でありながら、臨までフルタイムでの会社勤めを続けざるを得なかった。
幸いつわりは軽く、体調は定していたのだが、この頃から義母が頻繁にがへ入りするようになったのだ。