"愛人と帰国した夫、30分の猶予" 第4話
私もプロとして、わざと頬を膨らませてったふりをして見せた。
「私の本指名のお客様は、もっと夜が更けてからいらっしゃるんですー。こんな直のいからふらっと現れる憲吾さんも、ずいぶんとお暇なんですね」
とびきりの営業スマイルを向けると、憲吾は腹を抱えて笑いした。
「あっはは! 面いな、咲きちゃんは! 気に入ったよ。じゃあ、で景気付けにシャンパンでもけようか」
憲吾はそう言って、躊躇することなく級なピンクのシャンパンをオーダーしてくれた。まだ代半ばの若さで、ずいぶんと羽振りがいい。
尋ねてみると、彼は当急成を遂げて世の注目を集めていた、のIT系ベンチャー企業に勤めているのだという。しかも、入社数目にして営業成績はずば抜けてトップを独しているとのことだった。
「俺さ、と関わるのがぬほど好きなんだよ。の懐にび込んで、そのをって、そのを好きになる。営業なんて、好かれちゃえば勝ちだからね」
グラスを傾け、し赤くなった顔で語る憲吾の言葉には、若者特の自信と眩いばかりの野が漲っていた。
そして、憲吾はふいに真顔になり、私をじっと見つめて尋ねてきた。
「ところでさ、咲きちゃんはどうしてそんなに必に働いてるの? 若い女の子が、昼も夜も働いておを稼ぐなんて、何かどうしても欲しいブランド品でもあるの?」
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夜の世界にを置いていれば、何百回と繰り返されるありふれた質問だった。
いつもなら、「将来、自分のおを持ちたくて」とか「旅にきたくて」といった触りのいい嘘で適当にはぐらかすところだった。だが、その夜の私は、なぜかこの男に対して嘘をつきたくないという、奇妙な衝に駆られていた。
しの躊躇いの、私は静かにをいた。
「……借を返すためです」
憲吾は驚いたように目を瞬かせた。
私は、自分のいちをぽつりぽつりと語り始めた。
私はの、突然の凄惨な交通事故によって、最の両親を同にくしていた。
それは、両親が代の頃から爪にを灯すようにして働き、以の歳をかけてコツコツと資を貯め、晩になってようやくに入れた、願のマイホームを建てたばかりの来事だった。
まだ未成で途方に暮れていた私を救ってくれたのは、父の実の弟である叔父だった。叔父は私の法定代理となって煩雑な相続続きをに引き受け、両親の命保険では到底賄いきれなかった額の宅ローンの残債を、自分の蓄えを切り崩してに全額て替えてくれたのだ。
『咲子、このはおの両親のの結晶だ。絶対に放しちゃいかん。俺がをて替えておくから、おは自分のペースでしずつ返してくれればいい』
そう言ってくれた叔父への恩義を果たすため、私はを卒業してすぐに昼は般企業の事務員として働き、夜はのいクラブにび込んで、遮無おを稼いできたのだ。
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「こう見えても、昼はちゃんとしたOLなんですよ」
私がし誇らしげにおどけて見せると、憲吾の表から軽な笑みが完全に消え失せた。
の同世代の若者たちが、コンや旅やファッションに興じて代の青を謳している、私は青のすべてを借返済の労働に捧げていたのだから、驚くのも無理はなかった。
憲吾は居まいを正し、まっすぐに私の瞳を見つめた。
「……さっきは暇だなんて言って、本当にごめん。咲きちゃんは、本当に派な働き者だよ」
そう言って、憲吾は私ののにそっときなを乗せ、慈しむように優しく撫でてくれた。
そのの温もりが、孤独ので張り詰めていた私のの線を、あまりにもく震わせた。
それからというもの、憲吾は週に、回のペースで私のに通い詰めるようになった。
私もまた、勤するたびに憲吾の来を待ちにするようになっていた。
客とホステスという関係が言ほど続いた、歳の誕を迎えたのをに、私は夜の世界から完全にを洗うことを決した。