"妻の事故と、五歳の娘が見抜いた嘘" 第14話
徹なる決別と断ち切られた糸
「咲。聞きなさい」 介の声は、受話器の向こうの狂乱を切り裂くほど、静かで質だった。
『え……? 介……? 許してくれるの……?』 咲の声に、浅ましい期待が混ざる。
「僕たちのに、おというはもうしないんだよ」
受話器の向こうが、ピタリと息を呑んだ。 「おが事故に遭った、僕は本気でおのになろうとした。どんな荷でも背負う覚悟を決めていた。……でも、おは毛布のに浮気相を隠し、僕とを裏切り続けていた。おが今置かれている獄は、誰かがおに押し付けたものじゃない。お自の欲望と傲さが招いた、正当な報いだ」
『そ、そんなこと言わないでよ! 悪かったって謝ってるじゃない! ちゃん! ちゃんを話にして! お母さんの声を聞かせてよ!』
介は受話器から線をし、元でしく待っているを見た。 は介を見げ、静かに首を横に振っていた。 そのさな瞳には、揺のすら浮かんでいなかった。ただ、い過の来事を静かに見送るかのような、徹なまでの決が宿っていた。
「はおの声を聞きたがっていないよ。……あの、病でおに告げただろ。『お母さん、さようならです』と」
『嫌ぁぁぁっ! ちゃん! ちゃぁぁぁん!!』
「度と話をかけてくるな。次に何らかの接触を試みたら、即座に警察へ通報し、接禁止命令違反として実刑の続きを取る。
広告
弁護士には今から連絡しておくから、そのつもりでいろ」
『介! 待って、にしないで! 痛いのよ、寒いのよ、誰か助けてぇぇぇ――』
ガチャン。
介は切の躊躇なく、受話器をフックへ叩きつけた。 たい鉄の音が夕暮れの角に響き渡り、狂気じみた女の鳴は、永に遮断された。
介はく息を吐きし、乱れた呼吸をえた。 しゃがみ込み、のさな両を握る。 「……怖かったか?」
は首を横に振り、介のジャンパーの胸元にそっと顔を寄せた。 「怖くないですよ。お父さんがいるですから」 「……うん。こうか」 「はいです! 今はお肉をいっぱい焼くですよ!」
夕が迫る宅を、はを取りって歩きした。 背に残された緑の公衆話は、度とベルを鳴らすことはなかった。 過の霊は、完全に暗の底へと葬りられたのだ。