"元夫の再婚式に招かれた私には、秘密がある" 第5話
百万円の本当の
健と久美子が実へ来たのは、その翌の午だった。
今回は事の連絡さえなかった。
インターホンを何度も鳴らし、父が玄関をけた途端、健は「娘さんには変迷惑しているんです」と方に話し始めた。久美子も隣で腕を組み、まるで被害者はこちらだと言わんばかりの顔をしている。
「俺の子供を隠して、今度はそれを盾にを取ろうとしてるんですよ」
「何を言っているんだ」
父の声がくなった。
「由美がそんなことをするはずがない」
「本に聞いてくださいよ」
健は私を見る。
「俺から婚した腹いせに、誠を使って復讐してるんだろ」
私はポケットののスマートフォンを確認した。
の助言を受け、玄関へるから録音を始めていた。
「私は度もあなたにおを求していません」
「だったら百万円返せよ」
健は即座に言った。
「何のお?」
「妊治療だよ」
父と母が息を呑んだ。
健は勝ち誇った顔になった。
「、俺がどれだけを使ったとってる。病院代、薬代、検査代。結局、田の子供も産めなかったくせに、婚した途端に自分だけ子供をに入れてる。だったら俺が払った分くらい返すのが筋だろ」
私は震えた。
しみではない。
りだった。
あの治療は、夫婦で子供を望んだから始めたものだった。
広告
私だけが得をするために受けた治療ではない。
しかも健は、自分に原因がある能性をからっていた。
それでも、この男は私に百万円を返せと言っている。
「払えないなら」
健はさらに続けた。
「誠については俺の条件を受け入れろ」
久美子もを挟んだ。
「由美さん、を張るのはやめなさい。健と美さんは来週結婚するの。しい庭ができるんだから、誠ちゃんもそちらで育てた方が幸せよ」
母の顔が青ざめていた。
父の拳が震えている。
私は父がへようとするのを止めた。
「お父さん、いいから」
ここでになれば、相のうつぼだ。
私は健へ尋ねた。
「百万円を払えば、あなたは誠について何も言わないの?」
健は瞬黙った。
だが、私が怯えて交渉し始めたとったらしい。
「そうだな」
元にい笑みが浮かぶ。
「百万円用するなら、考えてやってもいい」
「来週までに?」
「結婚式は曜だ。そのまでに持ってこい」
「どうして結婚式までなの?」
質問すると、健はらかに苛った。
「細かいことはどうでもいいだろ。とにかく期限は曜だ」
私はその言葉を記憶した。
曜。
百万円。
自然だ。
久美子は私を見ろした。
「あなたのご両親なら老のおくらい持っているでしょう。娘と孫のためなんだから、それくらいしてもらえばいいじゃない」
広告
父の顔がりで赤くなった。
私はまた腕を押さえた。
「帰ってください」
「曜だからな」
健は最にそう言った。
「も用しない。誠についての話しいにも応じない。そんなことなら、こっちも専を使う。おたちがこの町にいづらくなってもらないからな」
が帰った、母は玄関へ座り込んだ。
「由美……」
「丈夫」
私は録音を止めた。
分。
健が百万円を求した言葉も、子供の問題と結びつけた発言も、久美子の言葉も残っている。
すぐへ送った。
分ほどして返信が来た。
《な記録です。原本を消さず保管してください。こちらでも理します》
さらに、
《百万円という額と期限が気になります。相側に何か別の事がある能性があります》
私も同じことを考えていた。
その夜だった。
らない番号から話がかかってきた。
るか迷ったが、から「今の連絡は能な限り記録を残して」と言われていたことをいし、応答した。
「もしもし」
「……由美さん?」
聞き覚えのある声だった。
昨、玄関で健の腕にしがみついていた女。
美だ。
「どうして私の番号を?」
「健のスマホで見たの」
悪びれた様子もない。
「それより、私からお願いがあるんだけど」
「何でしょう」
「絶対、誠君を渡さないで」
私は言葉を失った。
「あなた、何を言ってるの?」
「私、の赤ちゃんを育てるなんて嫌なのよ」
昨まで私を見していた女とはえない。
美の声には苛ちが滲んでいた。
「久美子さん、孫が見つかった途端にが変わっちゃって。今なんか『結婚したら仕事を辞めて誠ちゃんを育てて』って言いしたの。冗談じゃないわよ。私はそんなために健さんと結婚するんじゃない」
「だったら本に言ってください」
「言えるわけないでしょう」
美は声を潜めた。
「健さん、今おがないのよ」
私は息を止めた。
「どういう?」
「マンションも、私に買ってくれたバッグも、旅も、全部カード。借だらけ。結婚式だって久美子さんにかなりしてもらう予定なの」
そこで玄関のく音がした。
美が「あ」とさく声を漏らす。
話の向こうから健の声が聞こえた。
「ただいま。何してるんだ?」
美が慌てて話を切ろうとしたらしい。
しかし通話は数秒だけ繋がったままだった。
そして健が言った。
「例の百万円、曜には絶対持ってこさせる」
私はを疑った。
続いて聞こえた言で、背筋がたくなった。
「曜までに穴を埋めないと、全部バレるからな」
そこで話が切れた。
穴を埋める。
曜。
百万円。
私はすぐへ連絡した。
しかしその直、もう件の着信が入った。
相は学代からの友・直子だった。
直子は偶然にも、健が勤めている会社の経理部にいる。
話にると、彼女は声を潜めて言った。
「由美。落ち着いて聞いて」
嫌な予がした。
「健さん、会社のおにをつけているかもしれない」
私は何も言えなかった。
「今分かってるだけで、約百万円」
百万円。
健が私に求した額と、ほとんど同じだった。
そして直子は続けた。
「曜、正式な内部調査が入る」
私はそこで初めて理解した。
健が私から奪おうとしている百万円は、妊治療の費用ではない。
誠を育てるためでもない。
自分が使い込んだ会社のを、発覚するに戻すためだった。
そして、そのを私から脅し取った直に、何もらない招待客ので幸せな郎を演じるつもりなのだ。
曜。
結婚式。
健は、そのが自分ので最も華やかなになると信じている。
けれど私は決めた。
そのこそ、隠され続けたすべての事実に終止符を打つ。