"13年前に消えた娘が、元隣人のSNSにいた" 第1話
止まった計の部
鎌倉の宅に広がる曜の朝は、穏やかな静寂とともにけた。肌を撫でてりてくる涼やかなが、庭の百の枝をかすかに揺らし、台所の向きの窓からは柔らかな朝のが差し込んでいる。
えみは、キッチンカウンターので淡々と朝の支度をめていた。淹れたての煎りコーヒーの苦みったりが部にち込め、コンロのでせられた鉄フライパンからは、く引いたバターがパチパチと弾ける気よい音が響いている。平のパート勤めと事に追われる々ので、週末のこのだけは、誰にも邪魔されない平穏なひとときのはずだった。
まだ階の寝で眠っている夫・雅弘のためにホットケーキのをお玉ですくい、フライパンへ落とそうとしたその瞬、作業台の隅に置かれたスマートフォンの画面がく点灯した。
友からの何気ないメッセージ通。しかし、えみの線はその文面ではなく、画面部にく浮かびがった無質なデジタル数字に釘付けになった。
『202288』
その文字を網膜が認識した刹、えみの体内を氷のような衝撃が突き抜けた。
から力が抜け落ち、属のフライ返しがガチャンとい音をてて理のカウンターにね返った。
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に転がった音すら、い世界の来事のように聞こえる。
。あのから、ちょうどのが流れていた。
〇〇。当歳だった娘のくるみが、自宅から煙のように忽然と姿を消した、あの呪わしいの。
激しい悸が胸骨の裏側を乱打し、喉の奥がカラカラに渇いていく。、たりとも忘れたことなどなかったはずなのに、カレンダーに刻まれたその数字は、容赦のない凶器となってえみの臓を抉り取った。
えみは震える指先でコンロのを落とし、ボウルに残されたホットケーキのをそのままにして、ふらつく取りでリビングを横切った。背でコーヒーメーカーが抽の終わりを告げるピピッという子音を鳴らしたが、その音はに届かない。
階段を軋ませながら、えみは階へとがった。主寝の向かい、、決して用途を変えることを許さなかった「その部」のいドアのでち止まる。
きく息を吸い込み、たい属のドアノブを回す。
カチャリとラッチがれる音とともに広がったのは、が完全に凍結された、歳の女のための空だった。
し褪したピンクの壁。央に置かれた、ハローキティのヘッドボードが特徴なさな製ベッド。
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本棚には『ぐりとぐら』や『からすのパンやさん』といった絵本が背表を揃えて並び、チェストのにはリカちゃん形とおままごとのプラスチック製ティーセットが、まるで持ち主が数分に庭へ遊びにっただけであるかのように然と置かれている。
うっすらとり積もった埃の匂いと、閉ざされた部特の古びた空気。えみは窓辺に歩み寄り、レースのカーテンをけて窓をきく引きげた。
鎌倉ののが気に内に流れ込み、滞していた空気を揺らす。
「くるみ……」
壁に貼られたの形のウォールステッカー。その周囲には、歳までのくるみの写真が数枚、褪せた画鋲で留められていた。よちよち歩きを始めた頃の満面の笑顔、幼稚園の入園式でしきめの制を着て誇らしげに胸を張る姿、族で由比ヶ浜へかけたときの波打ち際のスナップ。
あの、域の自治会主催の夕涼み会にかけるため、夫婦は所にむ学のベビーシッターにくるみを預けてした。留守番を頼んだのはわずか半。だが、夜に帰宅したとき、玄関の鍵はけ放たれ、リビングではシッターが眠薬を混入された麦茶をまされてい眠りに落ちており、子供部のベッドからくるみの姿だけが消え失せていた。
警察の規模な捜索、連のニュース報、ビラ配り。しかし、何のがかりも遺留品も発見されないまま、だけが残酷に流れていったのだ。
チェストのに置かれた古いデジタルカメラが目に入った。、この部を掃除したときに置き忘れたものだ。に取って源ボタンを押すが、画面は暗いまま反応しない。えみはクローゼットの奥から専用の充アダプターを探しし、壁のコンセントに差し込んだ。
それから、ベッドのに置かれたさな子供を抱きかかえ、階の洗濯へと運んだ。毎、えみはこの部のやカーテンを洗い、柔剤のりを染み込ませて再び元の所へ戻す。それは周囲から見れば狂気の汰にえるかもしれない、母親としてのであり、祈りだった。
階段を再びがると、寝から起きてきた夫の雅弘が、パジャマ姿のまま子供部の入りに佇んでいた。