"義母に突き落とされたので、離婚します" 第2話
話越しの笑い声とい病
「あ? 階段から落ちただと?」
話の向こうから聞こえてきたのは、舌打ちの音だった。方で次を務め、頃から「誠実な員」を自認する夫・孝志の声だ。
「ちょっとを踏みして転んだだけだろ。本当にどこまでもドジでトロい女だな。母さん、げさに騒ぐなよってあいつに言っておいてくれ。俺は今、事な用事でがせないんだから」
面倒くさそうに吐き捨てる孝志の声の背から、クスクスと甘えるような若い女性の笑い声が微かに漏れ聞こえた。
『ねえ、誰からの話ぁ? 奥さん?』
『ああ、妻からだけどさ。本当にのかかるやつだよ』
孝志はベッドので、の井レナとシーツにくるまっていた。妻が自宅のたいでの境を彷徨っているその瞬、夫は都内のシティホテルで、別の女と贅沢な朝を迎えていたのだ。
かよは息子の背から聞こえる女の声に気づきながらも、切咎めようとしなかった。
「そうかい。じゃあ、救急だけ呼んで適当に放り込んでおくよ。あんたは気にせず仕事に励みなさいね」
話が切れ、ようやく救急請がされたのは、さつきが突き落とされてから分以が経過したのことだった。
サイレンの音がのき、さつきが運び込まれたのは、内の県総病院だった。
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「腕骨骨折、部傷に伴う脳震盪、全発打撲。……そして、切迫流産のリスクが非常にい状態です」
救急来の処置で、主治医の赤誠医師が告げた診断は極めて刻だった。幸いにも胎児の音は確認されたものの、母体へのい衝撃により胎盤にわずかな血が見られ、絶対静が必な状態だった。
夜になり、個のベッドので、さつきはゆっくりとい瞼をけた。
い井、規則に鳴る図の子音、腔を突く消毒液の匂い。はギプスで固定され、には分い包帯が巻かれている。
「さつきさん、気がつきましたか」
巡回に来た護師の織が、痛ましそうに声をかけた。
さつきは泣き叫ぶことも、取り乱すこともしなかった。ただ、く方のをそっと自分の腹部にねた。
「……赤ちゃんは……きていますか?」
「ええ、無事ですよ。本当によく持ちこたえてくれました。でも、絶対にいてはいけません」
の温かい言葉に、さつきの瞳から筋の涙が静かにこぼれ落ちた。の結婚活ので、度として見せたことのない、静かで決然とした涙だった。
コンコン、とノックの音が響き、赤医師が入ってきた。にしたレントゲン写真とCT画像を見つめながら、医師は慎に言葉を選んだ。
「さん、単刀直入にお聞きします。
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この怪は、ご自でを滑らせた転倒によるものとはえません。部の打撲痕の角度、そして背の肩甲骨付に残るい圧迫痕。これは、背から何者かのい力で図に突きばされた痕跡です。……警察を呼びますか?」
医師の鋭い指摘に、さつきは微だにせず、ただ静かに首を横に振った。
「先、ありがとうございます。でも、今はまだ警察は呼ばないでください。……師さん、お願いがあります」
さつきは枕元に置いてあった私物のさな布バッグから、い角形封筒を取りした。
「、夫がここへ来るはずです。そのに、これを渡していただけますか」
封筒のには、すでにさつきの署名と捺印が済まされた枚の婚届が入っていた。そして、便箋にかれた、たったのい。
『あなたが守らなかったものを、私は守ります。』
師は息を呑んだ。「さつきさん……本当に、これでいいのですか?」
「はい。もう分です」
さつきの横顔には、りも未練もなかった。ただ、の面のような、絶対零度の静寂だけが広がっていた。