"白米だけの夕飯を出されたので、家を出ました" 第1話
私の夕飯は、めた米だけだった
「反省したら、おかずをしてあげる」
義母の芳は、特寿司のトロへ箸を伸ばしながら、まるで子供をしつけるような調でそう言った。
、午過ぎ。品会社「丸品」の本社経理部で末と度末の締め作業を終え、私は肩も腰も固まった状態で自宅マンションへ帰った。玄関の扉をけた瞬、酢飯と醤油の匂いが漂ってきたので、今は珍しく寿司でも取ったのかとった。
リビングへ入ると、ダイニングテーブルにはきな寿司桶がつ並んでいた。トロ、ウニ、イクラ、穴子。どれも普段なら簡単には注文しないような特のネタで、公平と芳はテレビのバラエティ番組を見ながら楽しそうにべている。
私の席にも、何か置いてあった。
けれど、それは寿司ではなかった。
めた米が膳。
噌汁すらない。鉢も漬物もなく、茶碗の横に箸が膳置いてあるだけだった。
「……これ、私の?」
私が聞くと、芳はイクラの軍艦をへ運びながら頷いた。
「そうよ」
「どうしていご飯だけなんですか?」
「朝、私のお願いを断ったでしょう」
そのの朝、芳は突然、仕事を抜けてデパートへき、期限定の菓子を買ってきてほしいと言った。度末の締めに会社を抜けることなどできないと説すると、芳は「嫁なのにその程度のこともできないの」
広告
と嫌になった。
それが理由らしい。
「仕事だったって説しましたよね」
「だから何?」
芳は湯呑みを持ちげた。
「嫁のくせに私へ答えしたのは事実でしょう。反省したら、おかずをしてあげる」
その言葉を聞き、公平が寿司を頬張ったまま笑った。
「そんな顔すんなよ。嫌ならで牛丼でもってきたら?」
「公平……」
「百円くらいだろ。自分でせよ」
芳まで楽しそうに笑った。
「そうそう。でしをやしてきなさい。反省したら戻ってくればいいの」
私はの顔を順番に見た。
疲れて帰ってきた妻のにめた米だけを置き、その横で万数千円分の寿司をべながら笑う夫と義母。
けれど、議なことに、その瞬の私はっていなかった。
りは、もっとに使い切っていた。
「分かりました」
私はバッグを持ち直した。
「じゃあ、でべてきます」
芳は勝ち誇ったようにを鳴らした。
公平はテレビから目もさずに言った。
「ついでにコンビニでビール買ってきて」
私は返事をしなかった。
コートも脱いでいなかったので、そのまま玄関へ向かった。靴を履き、扉の取っへを掛ける。
は、このも疑っていなかったはずだ。
私が駅の牛丼で事をし、しを潰して、最終には「私が悪かった」とをげて帰ってくると。
なぜなら、こので私がするのは、もうく続いていたからだ。
広告
私は麻子、歳。
丸品の本社経理部で働いている。
夫の公平は歳。気設備の部品を扱う会社の営業職で、結婚してになる。子供はいない。駅から徒歩分のLDKのマンションは公平名義で借りていたが、賃万円と費、通信費を支払う計座へ、私は毎万円を入れていた。
公平が入れていたのは万円だった。
費のほとんどは、さらに私のクレジットカードで払っていた。
それでも芳にとって、このの主は息子の公平だった。
私は「置いてもらっている嫁」。
息子の世話をする。
気に入らなければ卓からおかずを取りげても構わない相。
玄関の扉を閉めた。
カチャリという音が、やけにさく聞こえた。
エレベーターで階へり、マンションをる。末の夜はまだたかった。
度だけ振り返ると、階のリビングの窓にはかりがついている。
あの部へ、私はもう戻らない。
公平も芳も、まだらない。
半から、私はこののために準備していた。
しい部もある。
切な類もも、もうほとんど運び終えている。
弁護士への依頼も済ませていた。
そして翌の午には、公平のもとへ正式な面が発送されることになっていた。
あの夜。
「で牛丼でもべてきたら?」
そう笑った夫の言葉が、結果には私を最にから送りした。
私は駅へ向かって歩きながら、バッグの内ポケットへを触れた。
そこには、誰にもられていないしい部の鍵が入っていた。