"七年後、屋上で見つかった妻の秘密" 第14話
バキッ、という異様な触とともに、油圧ショベルのバケットが空転した。
「おい、待て! 作業を止めろ!」
現監督が叫んだ。
砕かれたコンクリートの板のに、設計図面にはしない空が現れていたのだ。
さメートルセンチ、幅メートルほどのピット。誰かが作業で面を掘りげ、から粗悪なコンクリートを流し込んで固めた跡。
その崩れ落ちた砂の隙から、く化した細い骨が覗いていた。
駆けつけた福岡県警の鑑識班が慎に砂を取り除いた。
現れたのは、ののみに耐えかね、完全に骨化した若い女性の遺骨だった。
傍らには、錆びついた属製のヘアピンと、1980代半に流したアクリル製のペンダントトップが落ちていた。
遺骨から抽されたDNAは、直ちに福岡県警科学捜査研究所で解析された。そして、の裕子の実妹と、保されていた母親の遺品のDNA型と照された。
結果は——完全致。
。
歳の若い命は、自分が暮らしていたアパートの、毎踏みしめていたコンクリートののすぐで、誰にも気づかれることなく、昭から平成、そして令の代を、暗ので眠り続けていたのだ。
だが、残酷な法の現実がちはだかった。
事件が発した1985当の刑法において、殺罪の公訴効は。
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2010の法改正によって殺罪の公訴効は撤廃されたが、法改正の点で既に効が完成していた過の事件には遡及適用されないという法の壁があった。
犯が誰であるかを、警察も、遺族も、世もっていた。
しかし、国の法はもはや、佐藤シゲル——かつての佐藤タカシを、法廷の裁きのに引きずりす力を失っていた。
裕子の実妹は、遺骨を引き取る際、集まった報陣ので声を詰まらせた。
「姉は……ずっとここにいたんですね。お母さんがくなるに、度だけでも抱きしめさせてあげたかった……」
たいのが、掘り返された赤の穴を静かに濡らしていた。
2024の。鹿児島の空は、あのと同じようにからの湿ったに包まれていた。
かつて階建ての棟がち並んでいた「サングリーン」の跡には、最鋭の免震構造を備えた代な層マンションが聳えっていた。央の壇も、あの造の管理事務所も、枚の表彰状が飾られていた壁も、すべて瓦礫となって消えり、過の記憶を覆い隠すように真しい舗装が広がっている。
そのエントランスの脇、しく植された桜ののに、の初老の男性がっていた。
健、歳。
髪の混じった髪をになびかせ、のに握りしめたさな布の袋をそっと胸に当てていた。
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ミキが毎朝肩にかけていた、あの青いヨガバッグの切れ端だった。
「ミキ……ようやく、州の桑原さんも見つかったよ」
健の呟きは、の音のに静かに溶けていった。
「君が残してくれたあのメモが、あの番号がなかったら……僕たちは今でも、君がにび込んだと信じ込まされたままだった。君の勇気が、分の嘘を全部暴いてくれたんだ」
真実は、ただ待っているだけでは決して姿を現さない。
もしミキが、帳簿の数字の狂いを見過ごしていたら。
もし彼女が、怯える老の沈黙に背を向けていたら。
もし彼女が、親友へ本の話をかけず、引きしの奥にあのメモを残していなかったら——。
佐藤シゲルは今も「親切で頼りになる管理」として民の謝を集め、枚の表彰状ので寿を全うしていただろう。
の女性は、命を奪われた。その無と無慈な結末を、決して消しることはできない。
しかし、見らぬで孤独にち向かった歳の主婦が残した「つの閲覧番号」と「枚のメモ」というさな灯は、のを超えて貯槽の鋼鉄を溶かし、のを超えて分いコンクリートのを打ち砕いた。
悪がどれほどく塗り固められようとも、が遺した真実への志は、決してのには埋もれない。
桜のびらがひら、に乗って健の肩にい落ちた。
それはまるで、きにわたる暗を抜けてようやくらかな眠りについたの魂が、ののへ静かに旅っていく図のようだった。