"七年後、屋上で見つかった妻の秘密" 第5話
彩は息を呑んだ。「ちょっと、ミキ……それ、あなたが首を突っ込むようなことなの? 危ないんじゃないの?」
「危ないかもしれない。でも、見過ごせないの。……彩、今から言う番号を、帳にメモしてくれない?」
「番号?」
「役所の建築指導課にある、ある特定の設計・管理文の閲覧番号よ。もし……もし私のに何かあったら、警察か誰かに、この番号を伝えてほしいの」
「ちょっと待ってよ、ミキ! 縁起でもないこと言わないでよ! 何があるっていうのよ!」
受話器越しに彩が取り乱した声をげた。だが、ミキは静かに、しかし語語を噛みしめるように数字を読みげた。
『KS-86-0412』
「いた? KS-86-0412よ。……お願い、絶対に無くさないでね」
「ミキ、あなた本当に丈夫なの!? 今すぐ福岡に帰ってきなさいよ!」
「丈夫。曜に、直接あのに確認してみるつもりだから。誤解なら、それでいいんだし。……話してくれてありがとう、彩。声が聞けてよかった」
カチャリ、と受話器が置かれた。ツーツーという無質な発信音が、福岡の彩の部に虚しく響き渡った。
そして、運命の1993412、曜。
がりの朝、空には折が差していた。
午分。ミキはいつものように青いナイロン製のヨガバッグを肩にかけ、自宅の玄関をた。元はいスニーカー、淡いグレーのカーディガンに紺のパンツという、清潔できやすい装だった。
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同じ棟の階段をりていく際、ゴミ捨てから戻ってきた隣の主婦が、ミキのろ姿を目撃している。
「おはようございます」と軽く言葉を交わした際、ミキの顔はし緊張しているように見えたが、取り乱した様子は切なかったという。
それが、公ので確認されたミキの最の姿となった。
正の向かいにあるビル階のヨガ教へは、ので歩いてわずか分の距だった。
しかし、午からのレッスンに、ミキは現れなかった。無断欠席など度もしたことのない彼女が来ないことをインストラクターは審にったが、「急な用事だろう」とく気に留めることはなかった。
午分。夫の健が仕事を終えて帰宅した。
玄関の鍵は閉まっていた。靴箱をけると、ミキの普段履きのスニーカーがない。リビングに入っても、部は暗く、夕の支度をした形跡はどこにもなかった。キッチンのテーブルのには、朝入れた麦茶のポットがそのまま置かれていた。
「ミキ? どこかかけてるのか?」
話をかけても応答はない。実の福岡へ話を入れたが、母親も「こっちには来ていない」と驚くばかりだった。
夜、付が変わる頃になってもミキは戻らなかった。
夜、顔面蒼になった健は、所の交番へ駆け込み、捜索願を提した。
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歳の若い主婦が、昼の宅から、まるで煙のように忽然と姿を消した瞬だった。
ミキの失踪からが経過した、1993415の朝。
鹿児島湾を臨む桜島フェリーターミナルからへ百メートルほどれた、荒涼とした溶岩帯。黒いゴツゴツとした岩肌が剥きしになった磯に、のたい波がく砕け散っていた。
午半頃、所にむ初老の釣りが、波打ち際の平らな岩のに自然に置かれた荷物を発見した。
青いナイロン製のヨガバッグだった。
潮に晒されて表面が湿っていたが、波にさらわれることもなく、岩の窪みに丁寧に置かれていた。審にった釣りがを確認し、所轄の警察署へ通報を入れたのは午のことだった。
現に急した捜査員がバッグをけた。
に入っていたのは、綺麗に折り畳まれたフェイスタオルが枚、着替え用のヨガウェアが着、そして——撥加の施されたい封筒が通だった。
封筒の表には、細い万の文字で『健へ』とだけかれていた。
震えるで封をけた捜査員が便箋を取りす。そこには、わずかの文章が記されていた。
『これ以きるのは辛い。ごめんなさい。元気でね。 ミキ』
跡は、ミキが残したメモや記の文字と見して酷似していた。
几帳面な文字の傾き、特徴な払いの角度。
警察の初捜査は、瞬くに「投自殺」