"七年後、屋上で見つかった妻の秘密" 第2話
シゲルはに持った軍をし、のついた指先を見つめながら、彼女のろ姿が角を曲がるまで、瞬きもせずにじっとその背を見送り続けていた。
ミキがこのマンション「サングリーン」の階に夫の健とともに引っ越してきたのは、の19927のことだった。
福岡内の商業を卒業、元の力な繊維商社で、経理事務として勤務していたミキは、几帳面で数字にい女性だった。歳の夫・健は鹿児島の元企業に勤める実直な営業マンで、実もこのにあるため周囲には顔馴染みがかった。
しかし、ミキにとっては違った。親類も友ももいない、完全に孤した見らぬ。同じ州とはいえ、博弁と鹿児島弁の微妙なイントネーションの違いにさえ気れし、引っ越してきた当初は所のスーパーマーケットで野菜の鮮度を員に尋ねることすら躊躇していた。
「健さんは仕事で遅くなるし、昼はずっと。このままじゃ、部の壁としかお話しできなくなっちゃう」
ミキは実の母親に宛てたに、そんな音を漏らしたこともあった。
だが、彼女は塞ぎ込んで部に閉じこもるような性格ではなかった。商業代に取得した商簿記級の腕をかし、何かしらの形で域と繋がりたいと考えていた矢先、マンションのエントランスの掲示板に枚の張りを見つけた。
広告
『自治会・管理組 会計補助役員募集(急募)』
当、サングリーンの自治会役員は居している主婦たちが輪番で務めていたが、共働き世帯の増加や齢化により、帳簿の管理が完全に形骸化していた。任者が体調を崩して引き継ぎが滞り、過数分の領収と納帳が段ボール箱に詰め込まれたまま放置されていたのだ。
ミキは迷うことなく自治会の稽古(けいこ)の自宅を訪ね、役員に志願した。
「まあ、さん、本当にいいの? うちの帳簿、もう何もぐちゃぐちゃで誰も触りたがらなかったのよ」
「私、会社でずっと経理をやっていましたから、お役にてるといます。暇を持て余すより、数字と向きっている方が落ち着くんです」
ミキの仕事ぶりは、自治会の役員たちを驚嘆させた。
引き渡された分の領収の束、の通帳、きの納帳を、彼女はわずかヶらずのにすべて付順・勘定科目別に分類し直した。パソコンなどまだ普及していない代である。彼女は自腹で購入した判の会計元帳に、美しいペン習字のような細い楷で円の狂いもなく数字を転記し、度ごとの瞭な決算報告をまとめげた。
「本当に助かったわ。さんが来てくれて、このマンションの空気がるくなったみたい」
広告
会の稽古をはじめ、隣所の主婦たちからの信頼は気にまった。ミキ自も、自治会の集まりに自製の菜漬けを持ち寄ったり、所の弓(ゆみ)とお茶をんだりしながら、しずつこのに自分の居所を築きげていた。
毎朝分には正のビル階にあるヨガ教に通って汗を流し、午は夕の買い物をして夫の帰りを待つ。平凡だが、確かな幸福がそこにあった。
異変の端緒は、がけた1993のに訪れた。
あるの午、同じ棟の階にむ弓が、困惑した表でミキの部のチャイムを鳴らした。
「ミキさん、ちょっと相談があるの。うちの主が先、管理費と修繕積を確かに窓から振り込んだって言うんだけど……昨、管理事務所から『ヶ分未納』っていう督促のメモがポストに入っていたのよ」
「えっ? そんなはずはないといますけど……のため、事務所の控えを確認してみましょうか」
ミキは弓をさせるように微笑み、自治会の帳簿を持って階の管理事務所へを運んだ。
事務所の奥の事務机には、シゲルがで座り、古い伝票をめくっていた。ミキが事を説すると、シゲルは慌てる様子もなくちがり、製の類棚から入台帳を取りして広げた。
「ああ……失礼いたしました。
の振込通の綴り込みが、私の違いでのファイルに紛れ込んでおりました。