"母に贈った家を狙う親戚夫婦" 第1話
玄関の鍵をけた瞬、噌汁と焼き魚の匂いがした。
週の張を予定よりく切りげ、母を驚かせようと何の連絡もせず帰宅した私は、その匂いに度だけ堵した。母は数に転倒して入院し、すでに病院をてリハビリ施設へ移ったと聞いていたが、もしかすると予定よりくへ戻っているのかもしれないとったのだ。
ところが靴を脱ごうとしたところで、私はきを止めた。
靴箱のに、見覚えのない男物の革靴がある。
その隣には派な女性用のスニーカー。廊にはきな段ボール箱がつ積まれ、母が歩くために設置したすりの部を塞いでいた。
奥から男女の笑い声まで聞こえる。
テレビの音量も異様にきかった。
母は昔からテレビの音をげるのが嫌いだった。
私は旅鞄を玄関へ置き、静かに廊をんだ。
リビングとダイニングを仕切る引き戸をける。
そこにいたのは、母ではなかった。
「……何をしてるの?」
い声が、自分でも驚くほど静にた。
ダイニングテーブルを占領していた男女が、同に振り返る。
母の甥にあたる浩司と、その妻の里美だった。
浩司は缶ビールを片にスマートフォンを眺め、里美は焼き魚を箸で崩しながらテレビを見ていた。しかも使っているのは、母がいをかけてしずつ集めたお気に入りの鉢だった。
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「裕子ちゃん?」
浩司が目を見いた。
だが驚いたのはほんの瞬だった。
「ああ、帰ってきたのか」
まるで自分のへ親戚が遊びに来たかのような調だった。
里美も箸を置かない。
「張ってまでじゃなかったっけ?」
その言で、背がたくなった。
は私の予定までっている。
部を見回すと、さらに異常が目についた。壁際にはきなスーツケースがつきっぱなしになり、着替えや化粧品まで入っている。玄関くには浩司のゴルフバッグがて掛けられ、母のために広く取った廊を半分く塞いでいた。
泊や泊ではない。
らかに「む」つもりの荷物だった。
このは、私が母のために建てた。
若い頃に父をくした母は、昼は堂、夜はオフィスビルの清掃員として働き、女つで私を学までしてくれた。になると洗剤でがひび割れ、何本もの指に絆創膏を巻いていた。
私はそのを見るたびにっていた。
いつか必ず、このを楽にする。
学卒業、建設会社に入り、施管理の仕事を続けた。
同期がを買い、旅へき、結婚式に何百万円も使う、私は古いアパートにみ続けた。を減らし、を買わず、賞与の半を貯した。
。
そうして建てたのが、この平だった。
母の腰がっても暮らせるように、玄関から内まで段差を極力なくした。
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廊は子でも通れる幅にし、呂にもトイレにもすりを付けた。
でも寒くないよう断性能にもをかけた。
母がして暮らせる所。
そのためだけに建てただった。
なのに今、そののへのついた浩司の靴が転がっている。
「お母さんは?」
私は尋ねた。
浩司は缶ビールをテーブルへ置いた。
「文おばさんなら、まだリハビリ施設」
「退院したって聞いたけど」
「病院は退院したよ。もうし施設で様子を見るんだってさ」
「じゃあ、どうしてあなたたちがここにいるの?」
今度は里美がちがった。
私の許など切求めず蔵庫をけ、母のために買っておいたお茶を取りす。
「え? 文おばさんから聞いてないの?」
「何を?」
「私たち、ここを管理することになったのよ」
が分からなかった。
「管理?」
「広いにじゃ変でしょ。だから私たちが緒にんであげることにしたの」
んであげる。
その言葉に、こめかみが脈打った。
浩司夫婦が何度もさな商売を始めては失敗し、借を抱えているという話は親戚から聞いたことがあった。最では賃のいアパートを転々としているとも聞いていた。
私はの荷物を見た。
あまりにも分かりやすい。
母の入院を利用して転がり込んだのだ。
「母がそんなことを認めるはずないでしょう」
私が言うと、浩司は待っていたと言わんばかりにポケットへを入れた。