"二十六年目の告白" 第1話
病の告と、狂気の終焉
ピ、ピ、ピ——。 図モニターの規則正しい子音が、壁に囲まれた症病のえ切った空気を切り刻んでいた。消毒液との予が混ざりった独特の匂い。窓のでは、のたいが黒ずんだガラス窓を叩き続けている。
ベッドに横たわる夫・浩司(こうじ)は、骨と皮ばかりに痩せこけたを震わせ、元を覆っていた酸素マスクを自らの指先でずらした。浅くい呼吸の隙から、掠れた声が漏れる。
「ゆみ……許してくれ。、俺はおが産んだ息子を……の子とすり替えたんだ」
私は鳴らなかった。泣き叫ぶことも、夫のい胸元を掴んで問い詰めることもしなかった。ただパイプ子にく腰掛けたまま、膝のの黒革のハンドバッグの持ちを静かに握りしめていた。
浩司の濁った瞳には、うっすらと涙が浮かんでいる。の淵に至って犯した罪を告し、神妙な懺悔によって魂の救済を得ようとしているのか。それとも、残される正妻を絶望の淵へ突き落とすための、最の嫌がらせなのか。
「すまない……本当にすまない。誠(まこと)は、美(あけみ)の子なんだ。おは、俺のが産んだ子を……の子を育てさせられていたんだよ」
その瞬、病の隅にっていた義妹のマイがく鳴をげた。
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「お、お兄ちゃん……今、なんて言ったの? すり替えたって……そんなの嘘でしょう!?」
マイの声がガタガタと震えている。親族同が自の継ぎとして誇ってきた誠が、まさかの落とし胤(だね)だったなど、受け入れられるはずもない。しかし私はマイを振り返ることもなく、ただ微だにせず浩司の青ざめた顔面を見ろしていた。
「俺の勝で……おのを奪ってすまなかった……」
掠れ声で謝罪の言葉を紡ぎながらも、浩司の瞳の奥には奇妙な優越のが宿っていた。 自分がもっともした女の血を引く赤子を、憎い正妻にもを注いで育てさせた。血の繋がらないの子に青も、も、体力もすべて捧げさせた——その歪んだ達成が、にゆく男のちっぽけなプライドを支えていたのだ。男は、私がに崩れ落ち、を抱えて泣き叫ぶ姿を今か今かと待ち構えていた。それが男の描いた最の勝利宣言だった。
しまで、この部には誠がいた。「母さん、体がえただろ。温かいお茶を買ってくるよ」と私の肩を優しく抱き、廊へてったばかりだ。浩司はその隙を狡猾に狙っていたのだ。自分のする「息子」にだけは、この醜い真実を聞かせたくないという最の勝さで。
私はゆっくりとちがった。パイプ子がギシと軋む。
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夫の元へ、静かに顔を寄せた。
「謝らなくていいのよ、あなた」
私の声は、真の氷底のように透き通っていた。浩司が驚いたように目を瞬かせる。
「だって……私、丈夫だもの。のあの嵐の夜、あなたが児に忍び込んで何をしたか、私は廊のから全部見ていたのよ」
モニターの警告音がわずかにねがった。浩司の瞳孔がき、顔の筋肉が引き攣る。
「だからね、あなたが部をてった、私がもう度、名札を元の正しいベッドに戻しておいたわ」
「……え?」
「誠は、私が痛いいをして産んだ、私とあなたの本当の息子よ」
男の顔から、完全に血の気が引いた。、の子だと信じて溺してきた跡取り息子が、実は自分が遇し続けた妻の実子。そして、妻に復讐するためにに押し付けた子こそが、の実子だった——。
「ぎゃああああああっ!!」
次の瞬、病の空気を引き裂くような、獣のような絶叫が響き渡った。酸素マスクをねばし、浩司は泡を吹いて暴れ狂った。