"赤いガーベラと私の家" 第1話
母が描いたガーベラ
「玄関にあんな絵を飾っていたら恥ずかしいでしょう? だからしたんです」
嫁のみちるは、まるで古聞でも処分したような調で言った。夕方、パートから帰った私が玄関の壁から枚の絵が消えていることに気づき、を探して問いただしたのことだった。額縁だけでなく、押し入れにも物置にもない。嫌な予を覚えた私に、みちるはスマートフォンを見ながら平然と続けた。
「フリマアプリで売りました。千百円。素が鉛で描いた絵にしては、とく売れましたよ」
瞬、何を言われたのか分からなかった。
「あの絵を……売ったの?」
「はい」
「あれは母が描いたものなのよ」
「っています」
みちるはようやくスマートフォンから顔をげたが、悪びれる様子はなかった。私は喉の奥が締めつけられるような覚を覚え、壁に残った角い焼け跡を見た。
半、母はくなった。
女つで私を育てた母だった。最期の数かは病院のベッドからほとんど起きがれなくなっていたが、それでも体調のいいに鉛を握り、さな画用へ赤いガーベラを描いてくれた。
「子は赤いが似うから」
そう笑った。
な絵ではなかった。
茎はし曲がり、びらの形もそろっていない。けれど裏には、震える字で《子へ》とかれていた。
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母が最に私のためだけに作ってくれたものだった。
「っていて売ったの?」
「だって玄関に飾るようなものじゃないでしょう。これからを呼ぶこともあるのに、ああいう素っぽい物があると全体がっぽく見えるんですよ」
「ここはあなたのじゃないわ」
わず声がくなった。
みちるの眉がいた。
「でも将来、お母さんの面倒を見るのは私ですよね?」
また、その言葉だった。
みちるは何か気に入らないことがあるたびに、同じことを言う。
老。
介護。
息子。
その言葉を並べれば、私が何でも言うことを聞くとっているらしい。
「だから何?」
「自分のを考えてくださいってことです。お母さん、世界にしか息子がいないでしょう? そのお嫁さんが私なんです」
「それと、私の物を勝に売ることに何の関係があるの」
「そんなげさな。千百円ですよ」
額ではない。
私はそう言おうとした。
だが、その階から息子の裕がりてきた。
「何騒いでるの?」
「あなたからも言って。みちるが、おばあちゃんの絵を勝に売ったのよ」
裕は「ああ」と気の抜けた声をした。
「玄関にあったやつ?」
「ってたの?」
「みちるから、処分していいか聞かれたような気がする」
胸ので何かがえた。
「それで?」
「別にいいんじゃないかって」
「あなた、おばあちゃんが病院で描いたのをっているでしょう」
「でも、もう売っちゃったんだろ。今さら仕方ないじゃん」
みちるは勝ち誇ったように腕を組んだ。
その瞬だった。
鳴る気力が、逆に消えた。
何かが切れたのだとう。
。
私はこのをる。
それをともっている。
なのに最の最まで、私の気持ちより、自分たちの都の方が事なのだ。
「分かった」
私はそれだけ言った。
みちるがし驚いた顔をした。
「何がです?」
「もういいわ」
私は階段へ向かった。
「を尽かしたってこと」
翌朝、私は予定通り引っ越した。
暮らしたをる、玄関の壁だけを度振り返った。
母のガーベラがあった所には、い角が残っていた。
そして私はので決めていた。
しいには、あのを絶対に入れない。