"母の小さな食卓" 第1話
誕の卓
「母さん、おかずはこれだけなのか」
にしてから、私は自分の声がったよりたかったことに気づいた。ぶりに帰った実の卓には、いご飯と豆腐の噌汁、それに皿へ盛られたきゅうりの漬物しかなかった。母の歳の誕だから、駅でしい菓子を買ってきたのに、祝いの夕を用する側だった母は、私の顔を見て申し訳なさそうに笑っていた。
「を取ると、これくらいで分なのよ。直はりないでしょう。卵ならあるとうから、焼いてあげようか」
「いや、いい。俺は途でべてきたから」
それは嘘だった。幹線と来線を乗り継ぐ、母の煮物がべられるだろうとい、昼から何もにしていなかった。母は昔、誕になると決まって鶏肉とごぼうを煮た。私がきな皿から肉ばかり選ぶと、つの弟の志に残してやれと叱られたものだった。
母が湯みを取りにった隙に、私は台所の蔵庫をけた。牛乳がし、納豆がパック、半分に切った根が聞に包まれているだけだった。凍にはのついたパンが枚ある。母が自分のために何をべているのか、私はそれ以考えたくなくなった。
「母さん、の朝、買い物にこう。今は俺が何か作るよ」
「せっかく来たんだから、ゆっくりしなさい。
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いところを疲れたでしょう」
私は返事をせず、くの惣菜がまだいているか携帯話で調べた。注文を受け付けていると分かり、煮魚と野菜のえ物を分頼んだ。母は「そんなにべられない」と困った顔をしたが、私は「残ったらの昼にすればいい」とだけ答えた。母に慮させないための言葉が、会わなかった私にはひどくぎこちなかった。
母は惣菜を頼んだあとも落ち着かず、何度も財布を取りしてはしまった。私は代をもう払ったと伝え、久しぶりに居を見回した。父の写真の横には、に送った賀状がてかけられている。壁のカレンダーは先のままで、の設定温度は驚くほどかった。母は「だとこれくらいで分」と言ったが、私は元のえをじ、の買い物では温かい靴も選ぼうとった。
配達を待つ、玄関へ着を取りにくと、靴箱の横に見慣れない段ボール箱がつ積まれていた。赤い印刷の入った、級りんごの箱だった。贈答用の太いひもが掛かり、箱ずつ、母の字で「志へ」ときくかれている。
「これ、弟に送るのか」
「ええ。あの子が今度来たら持っていってもらうの」
母はそれだけ言って、噌汁の鍋にふたをした。私は箱の角に貼られた伝票を見た。隣の果園から今届いたもので、箱の値段は私が持ってきた菓子よりい。
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母は自分の夕に卵つ使うのをためらいながら、弟にはこれほどのものを用するのかとった。
子供の頃から、母の癖は「お兄ちゃんなんだからしなさい」だった。弟が私の自転を壊したも、受験に私の机を使いたいと泣いたも、最に折れるのはいつも私だった。だから、勤めていた会社が倒れ、私が仕事を失ったも、実にはらせなかった。母からまたを求められるのが怖かったのだと、今なら分かる。
、母は薬をもうとして、器棚のでさない袋を何度も裏返した。私は「こっちだよ」と印字された曜を指さしたが、母は笑ってごまかした。その仕が妙に気になったまま、私は客へ布団を運んだ。
押し入れから毛布をす、母に頼まれて隣のたんすのの薬箱を取った。箱のに通帳が挟まっており、へ落ちていた。拾いげた私は、そこに並ぶ同じ額と、同じ名から目をせなくなった。
毎万円。振込先は、志。記帳された付は、ちょうどから始まっていた。