"31年間、母が捨てなかったマットレスの秘密" 第10話
の卓
翌朝の目覚めは、鳥のさえずりと共に訪れた。
客に設置されたしい反発マットレスは、驚くほど適だった。、底のような窪みに体を沈めて眠っていた両親は、起きてくるなり「体が痛くない」「背が伸びるようだ」と、まるで魔法にかかったかのように驚いていた。
しかし、の表が劇に変わったのは、寝のせいだけではなかった。
リビングの炉のの飾り棚。
昨までは素朴な陶器の瓶だけが置かれていたその等に、しく磨かれた真鍮のフォトフレームが鎮座していた。
麦わら子の女が、胸にウサギを抱き、朝の柔らかなを浴びて無邪気に微笑んでいる。その元には、庭から摘んできたばかりの青の陽が輪、さなグラスにけられていた。
「おはよう、グレース」
母が朝のトーストを並べながら、ごく自然に、澄んだ声で写真に語りかけた。
31、決してにしてはならなかったその響きは、閉め切られていた窓をけ放った部を吹き抜けるのように、驚くほど自然に、温かく空に溶け込んでいた。
「おはよう、お姉ちゃん」
私がそう続けると、聞を広げていた父が顔をげ、メガネの奥の目を細めて優しく笑った。
「デイヴィッド、今は帰るに、庭の陽をもうし入れしていくかい。
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グレースが好きだったんだ。のを摘んでは、ままごとのサラダにして私にべさせようとしてね」
「へえ、姉さんってといたずらっ子だったんだね」
「そうよ。あなたよりもずっとお転婆だったんだから」
母が楽しそうに笑いながら、いコーヒーをテーブルに運んできた。
カップはつ。
父のにつ、母のにつ、私のにつ。
そして、さな女の子の写真のに、ミルクをたっぷりと入れたさな陶器のカップが、静かに湯気をちらせていた。
かつて、若い夫婦が過酷な劇をき延びるために選んだ「沈黙」という名の防壁。それはいつしかを暗に閉じ込めるい檻となり、31もの、分いマットレスのにすべての痛みを封印し続けていた。
だが、偶然の綻びから始まった昨の午は、その呪縛を永に打ち砕いた。
しみは、消えることはない。失われた娘の命が戻ってくることもない。
けれど、暗に隠し続けるしみと、ので名を呼び、共に語りうしみは、まったく違うものだ。語られる記憶ので、グレースは31の孤独な眠りから目覚め、ようやく本来あるべき所——する族の輪のへと還ってきたのだ。
朝を終えた、私はしいマットレスのシーツをえる母の姿を、寝のドア越しに見つめた。
背筋をピンと伸ばし、柔らかな朝のを浴びながら、母はをっていた。かつてグレースが好きだったという、古い子守唄のメロディ。
その元には、もう何も隠されていない。
通しの良くなった部のカーテンが、初の爽やかなを孕んで、くきく膨らんでいた。