"31年間、母が捨てなかったマットレスの秘密" 第8話
作業員たちの沈黙
「失礼します」
寝のけ放たれたドアの向こうから、控えめなノックの音が響いた。
振り返ると、廊に配の作業員がっていた。キャップを胸元に抱え、申し訳なさそうにをげている。そのろには、若い作業員も直の姿勢で控えていた。
「作業の件ですが……いかがいたしましょうか」
配の男の声は極めて穏やかで、そこには好奇の目など微もなかった。
私はちがり、目を拭いながら廊へた。
「すみません、お待たせしてしまって。……見苦しいところをお見せしました」
「とんでもございません」作業員はく首を振った。「私たちこそ、ご族の切な所に無慮に踏み込んでしまい、申し訳ありませんでした」
彼は寝のスノコ板のに広がる景を、敬に満ちた差しで瞥した。
「最初にマットレスを持ちげた、の束と、お子さんの写真が見えました。……私にも、同じ頃の孫がおります。これがただのゴミや用品ではなく、どれほどい祈りので守られてきたものか、触れずとも分かりました。あのようなお話を差しげた無礼、どうかご容赦ください」
「いいえ。あなたが母を止めてくれなければ、母はパニックのあまり倒れていたかもしれません。謝しています」
私は財布を取りそうとした。
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作業を断させ、い拘束してしまった。相応の追加料を支払うのが当然だった。
しかし、配の作業員は両を挙げて、それを静かに制した。
「料は結構です。古いマットレスの引き取り費用も、キャンセル扱いにさせていただきます」
「え……? でも、それでは会社に示しがつかないでしょう」
「配送伝票には『既ベッドフレームの構造の問題により、引き取り作業能』と処理しておきます。しいマットレスは、お客様のご指示通り、隣の客に仮設置させていただきました。梱包の段ボールもすべて回収してあります」
若い作業員も、黙って々とをげた。
彼らは具の配送という常の業務ので、偶然にも軒の庭が30以抱え続けてきた「魂の聖域」に触れてしまったのだ。そして、それをプロの職としての徹な事務処理ではなく、のとしての温かな良識と尊厳をもって扱ってくれた。
「奥様」
り際、配の作業員が寝の母に向かって、優しく声をかけた。
「どうぞ、お事になさってください。良いお気で、がとても気持ちの良いですから」
トラックのエンジン音がざかり、再びに静寂が戻ってきた。
計の針は、すでに午4を回っていた。窓から差し込む陽は黄に変わり、寝のスノコ板のを、あたたかな茜で染めげていた。