"60万円の命の値段" 第9話
全額、あなた個に求償します」
塚社が酷に言い放った。
「すでに顧問弁護士団が、貴様の全座の仮差し押さえ続きを完している。与、退職は当然ゼロだ。社宅のマンションも今付けで退処分。敷は損害賠償の部に充当する」
「ま、待ってください! 俺の母さんはどうなるんですか!? 腰を折って入院してて、がないと追いされちゃうんですよ!」
達也は涙とで顔をぐしゃぐしゃにしながら、塚のズボンの裾に縋り付いた。
「るかッ!」塚は容赦なくそのを蹴ばした。「自分の母親の介護すら嫁に無で押し付けようとしていたゲス野郎が、今さら親孝の真似事か! 貴様の母親の医療費など、雇いの肉体労働でもして自分で稼ぐんだな!」
「いやだ……いやだああっ! 美央、許してくれ! やり直そう! 俺はおをしてるんだ!」
達也がいずりながら美央の靴に額を擦り付けようとした瞬、美央はたく指を本、さくてた。
スッとが差した。
配置されていたの柄なSPが、達也の両腕と首根っこを背から万力のような力で締めげた。
「ぐえっ……!」
「連れてきなさい」美央は度も線をわせることなく、背を向けた。「の警察に引き渡しを。父の神聖な式に、これ以ゴミを置かないで」
「美央ーッ! 美央ォォォッ!!」
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引きずられていく達也の絶叫が、い扉の向こうへとざかっていく。
バタン。
扉が閉まり、再び斎に凛とした静寂が戻った。
に残された血痕を、清掃スタッフが無言で素く拭いる。何事もなかったかのように、導師の鐘の音がチーンと澄み渡る音をてて鳴り響いた。
美央はゆっくりと祭壇へ向き直り、く、く礼した。
参列者たちから、嘆と畏怖の混ざった吐息が漏れた。者に甘んじることなく、に流されることもなく、悪しき者を完膚なきまでに叩き潰した若き統帥。その姿に、馬グループの未来が揺るぎないものであることを、誰もが確信していた。
告別式からヶが過ぎた。
都の喧騒からくれた、川沿いの吹きさらしのバラック。築を超える造モルタルアパートの湿ったに、の隙が容赦なく吹き込んでいた。
「おい、達也! オムツがたいんだよ! く替えろって言ってんだろ、この役たず!」
万の煎餅布団のから、甲い罵声がぶ。腰椎骨折の治療費が払えず、公病院から制退院させられた母・正子だった。
「今やってるだろ! うるせえな!」
達也はひび割れたでゴム袋をはめ、悪臭に顔を顰めながら汚れたシーツを取り替えていた。
かつてのエリート商社マンの面は、どこにもなかった。
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無精髭は伸び放題、頬はこけ、着ているのは作業着のリサイクルショップで買った百円のヤッケ。
懲戒解雇の事実は業界内に完全にれ渡り、再就職先などどこにもなかった。に入ったのは、朝の解体現での雇い労働だけ。当の万千円のうち、裁判所の命令により割が馬グループへの損害賠償の返済として自に差し押さえられる。
残ったわずかな銭で、半額シールの貼られたパンと、母親のい介護用品を買うのがやっとの々。
「あいつ……あの女……! 俺を騙しやがって……!」
達也は震えるで、暗い部の隅に転がるワンカップの郎を煽った。
酒のっぽいアルコールが喉を焼く。
もし、あの夜。
「父の命がかかっているの」と美央がをげたあの夜、自分が惜しまずに万円を差ししていれば。
いや、せめてとしての労わりの言葉をつでもかけていれば。
今頃、自分は馬グループの次期総帥の夫として、階のスイートルームで優雅にワインを傾け、何万もの部のに君臨していたはずだった。
すべては、自分がのに持っていたのだ。世界で最も巨な富と権力への鍵を、自分が握っていたのだ。
それを、たった万円の端を惜しみ、らない虚栄を満たすために自らドブに捨てた。
「ああああああっ! あああああっ!」
達也はを抱え、たい畳に額を何度も打ち付けた。悔の炎が、臓腑を焼き尽くしていく。