"60万円の命の値段" 第8話
黒田が歩みて、堂内全体に響き渡る声で告げた。
「先代総帥の遺言、および馬ホールディングス取締役会の全会致の決議に基づき、本付をもって、馬美央様が馬グループ統帥として全事業の指揮権を継承いたしました」
ザッ!
その言葉が終わるがいか、最列にいた各界の首脳陣、そして塚社を含めた数百の参列者が、斉に席を蹴って起した。そして、美央に向かって直角に腰を折り、々とを垂れた。
「「「統帥様!」」」
音の唱が、斎を揺るがした。
達也の全の毛穴から、瞬で汗が吹きした。膝がガクガクと震え、っていることすらできなくなる。
「う……あ……あ……」
自分の勤める会社「帝都産業」が、馬グループの末端の末端であること。
自分が「誰のおかげで飯がえている」と威張り散らしていた妻が、その会社の殺与奪の権を握る帝国の頂点に君臨していたこと。
そして、自分が万円を惜しんで殺したも同然の男が、その帝国の絶対神であったこと——。
点と点が線で結ばれた瞬、達也の界は真っ赤に染まった。
「貴様ァッ!!」
斎の空気を引き裂いたのは、獣のような咆哮だった。
最列からびしてきた塚社が、太りの体からは像もつかない俊敏さで達也の胸ぐらを掴みげた。
ドカッ!
鈍い打撃音が響き、達也の顔面に塚の拳が々と突き刺さった。
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「ぎゃあああっ!」
達也は派に宙をい、理のに背から叩きつけられた。血が噴きし、物のネクタイを真っ赤に染める。
「しゃ、社……!? な、なんで……俺は課代理の佐々で——」
「黙れ、こののクズがッ!」
塚は狂乱したように達也の胸倉を革靴で踏み躙った。顔を真っ赤に鬱血させ、血管が千切れんばかりに叫ぶ。
「が帝都産業を破滅させる気か! 貴様のようなの程らずの寄虫が、先代総帥と統帥様に何を抜かしたか! 『無でオムツを替えろ』だと!? よくもそんな汚らわしいでこの神聖なにを踏み入れたな!」
「ひっ……ひいっ! た、助けて……美央、助けてくれ!」
達也はをいずり、美央の元へを伸ばそうとした。
美央は歩もかず、まるでのを避けるように、たくそのを爪先で払いのけた。
「黒田さん。あれを」
「はっ」
黒田が差ししたのは、あの、美央がアパートをる際に用していた、あの漆黒のレザーファイルだった。美央はファスナーをき、の類を枚、にいつくばる達也の目のに放り投げた。
緑の用。所定の欄には、すでに美央の署名と捺印が完璧に済まされていた。
「婚届よ。文句があるなら婚だ、と言ったのはあなたでしたね。あなたの望み通りにしてあげます。署名しなさい」
「み、美央……頼む、悪かった! 俺が悪かった! おが馬グループの令嬢だなんてらなかったんだ! ってたらあんなこと言わなかった!」
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「っていれば言わなかった?」
美央の元に、氷点の嘲笑が浮かんだ。
「相が力を持っているとれば媚びへつらい、力のない老や妻だと見せば踏みにじる。……あなたのその浅ましい本性こそが、父の命を奪ったのよ」
美央はファイルから、さらに通の分い類を取りした。
「そして、これがあなたの本当の居所よ」
バサリ、と達也のへ落とされた類。その表題の太文字が、達也の血った目にび込んできた。
『懲戒解雇通』 『損害賠償請求予告通 億千万円也』
「な……さ、億……!?」
達也の呼吸が完全に止まった。
「業務横領、架空経費請求、部への脅迫およびパワハラ」
美央は淡々と、刑事告発の罪状を読みげる検察官のように言葉を紡いだ。
「それだけではないわ。あなたが『専務の特命』と信じ込んでサインしていたダミー会社への架空発注。専務は今朝、京検特捜部にしてすべてを自したわ。『佐々達也に全責任を押し付ける筈だった』とね」
「そ、そんな……! 俺は専務に言われた通りにハンコを押しただけで……!」
「法に見れば、実為者はあなたよ。架空取引による流資、億千万円。それに加えて、先代総郎の尊厳を著しく傷つけ、グループの社会信用を失墜させたことに対する懲罰慰謝料千万円。