"産後5日、家を売られた私の人生やり直し" 第2話
結婚指輪が買った切符
夕方4を過ぎるに、私はマンションをた。
産会社の男性がくのドラッグストアまで付き添い、最限のおむつと液体ミルクを買うのを伝ってくれた。代まで払おうとしてくれたが、私はどうしても受け取れず、財布に残っていた現で支払った。
財布のは1万円をし超える程度になった。
実は岡県倉敷にある。
両親とは仲が悪いわけではなかったが、達也が結婚に「いつまで実に頼るんだ」と嫌な顔をするため、ここ数は帰省も減っていた。産についても母とは連絡を取っていたものの、「退院したら落ち着いてから話する」と伝えていた。
今さら、まで失ったとは言えなかった。
せめて自分で実まで帰りたい。
そうった。
横浜駅までき、運賃を確認した、私はち尽くした。
元のではりない。
おむつもミルクも必だった。
今夜の分を残せば、幹線には乗れない。
駅を歩きながら、何度もを見た。
薬指にはの結婚指輪があった。
豪華な物ではない。
達也と婚約した頃、の料で無理なく買える物を選んだ。
《い物じゃなくても、これをつけよう》
そう言って笑った男は、もういない。
私は駅くの質へ入った。
主は、産もない私と赤ん坊を見てし驚いたものの、事は聞かなかった。
広告
ルーペで指輪を確認し、量を測り、申し訳なさそうに額を告げた。
「ブランド価値はほとんどつかないんです。素材と状態で……これくらいです」
っていたよりかった。
それでも、幹線で岡まで帰る費用と、最限のミルク代には届いた。
「お願いします」
指輪をカウンターに置いた瞬、議としくなかった。
むしろ、指が軽くなった。
達也との約束の証だった物が、娘を全な所へ連れていくための現へ変わった。
その方がよほど価値があるとった。
駅へ戻り、岡までの切符を買った。
元に残った現はわずかだったが、ようやく帰れる。
ホームへ向かおうとした、改札横が騒がしいことに気づいた。
「お願いします。本当に急いでいるんです」
配の男性が駅員にをげていた。
70歳を過ぎているだろう。等そうではあるが古びたコートを着ており、髪は乱れていた。
「財布を盗られました。携帯も入っていたんです。妻が……妻が危ないんです」
駅員も困っている。
「事は分かりますが、乗券なしではお通しできません。まず警察に届けて――」
「そんなはないんです。岡の病院なんです。今の列に乗らないと……」
岡。
私はち止まった。
男性のが震えていた。
「もうくないと連絡が来たんです。最になるかもしれないんです」
周囲のは巻きに見るだけだった。
広告
画を撮っている若者さえいる。
私は自分の切符を握った。
これを渡したら。
私は帰れない。
産5。
赤ん坊連れ。
夜。
体も痛い。
財布にはほとんどがない。
関わるべきではないとった。
自分こそ、誰かに助けてもらわなければならない側だった。
けれど、男性がもう度をげた、私はいていた。
「すみません」
老が顔をげる。
私は切符を差しした。
「これ、岡までです」
老は理解できないという顔をした。
「え?」
「使ってください」
「いや、あなたは……」
「私はがあります」
嘘だった。
体は限界にい。
帰る所だってない。
「でも奥様には、がないんですよね」
老の目から涙が落ちた。
「そんなさなお子さんを連れて……あなたが困るでしょう」
「各駅で帰ります」
「でも」
「くってください」
発刻が迫っていた。
私は切符を老のへ押し込んだ。
老は何度も首を振ったが、最には両で切符を握った。
「お名だけでも」
「美緒です」
「連絡先を……必ず、お返しします」
私はし迷った。
老の必な顔を見て、携帯番号をにいた。
「返さなくていいです。奥様のところへってください」
男性はくをげた。
「久世征と申します。このご恩は忘れません」
その名に聞き覚えはなかった。
老は改札の向こうへっていった。
私は陽菜を抱いたまま、しばらく背を見送った。
そして券売のに戻り、財布をいた。
残っている現でけるところまでく。
そこから先は考えるしかない。
普通列の切符を買った。
岡までは、幹線なら数。
各駅を乗り継げば、簡単には着かない。
夜の内。
い座席へ座った途端、腹部にい痛みがった。
わず息を呑んだ。
陽菜は胸ので眠っている。
「丈夫」
誰に言ったのか分からなかった。
私は窓に映る自分を見た。
髪は乱れ、顔は悪く、薬指にはもう何もない。
5。
私は夫と子供とで暮らす未来を信じていた。
今はその未来の代わりに、娘を抱いて夜のに揺られている。
それでも。
私の腕のには、絶対に失いたくないものが残っていた。
---