"産後5日、家を売られた私の人生やり直し" 第1話
赤ん坊と、空っぽの
産から5目の午、私はまれたばかりの娘・陽菜を胸に抱き、横浜内のマンションへ戻った。帝王切ではなかったものの体はまだまともに戻っておらず、歩くたびに腹部がく痛んだ。それでもタクシーの窓から見慣れた町並みが見えた、ようやくへ帰れるのだとうと、胸の奥にしだけ堵が広がった。
夫の達也は、産当も病院へ来なかった。「しい会社の準備でどうしてもせない」といメッセージが届いただけで、そのは話にもほとんどなかった。私は腹がちながらも、仕事が段落すれば謝ってくれるだろう、に帰れば父親になった実も湧くだろうと、自分に言い聞かせていた。
マンションの5階へがり、廊をゆっくり歩いた。陽菜はいおくるみので眠っており、そのさな頬を見ていると、達也への満さえ今は回しでいいとえた。
ところが、自宅のまで来た瞬、が止まった。
玄関のドアが数センチいていた。
「……達也?」
返事はない。
鍵を使わず、私はドアを押した。
最初に違を覚えたのは、玄関だった。達也の革靴がないだけではなく、私のスニーカーもパンプスも、靴箱そのものまで消えていた。引っ越し業者が全部運びしたのように、壁際には角い埃の跡だけが残っていた。
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嫌な予が気に膨らみ、私は陽菜を抱き直してリビングへ向かった。
そこには、何もなかった。
3、結婚して初めてで買ったダイニングテーブルも、妊娠が分かったに「子供がまれたらで座ろう」と選び直したソファもない。テレビ、蔵庫、炊飯器、子レンジまで消え、カーテンさえされていた。
「嘘……」
声が何もない部に吸い込まれた。
寝へく。
空だった。
私のも、達也のもない。
そして何より、産に何度も組みて方を確認したベビーベッドが消えていた。押し入れへ箱ごとしまってあった児用のおむつ、哺乳瓶、ミルク、肌着までなくなっている。
棒だとった。
震えるでスマートフォンを取りし、達也へ話した。呼びし音は度も鳴らず、すぐ留守番話へつながった。
もう度。
同じだった。
度目。
変わらない。
陽菜が目を覚まし、さく泣き始めた。
「丈夫、丈夫よ」
そう言った私自が、まったく丈夫ではなかった。
その、玄関から音がした。
「すみません、まだに――」
作業着姿の男性が入ってきて、私を見るなり止まった。
「あれ……奥さんですか?」
「誰ですか」
男性は戸惑いながら名刺をした。産会社の担当者だった。
「本、最終確認に来たんですが。こちらの物件、昨付で引き渡しが完しています」
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私はを理解するまで数秒かかった。
「引き渡し?」
「ご主から売却依頼を受けまして。かなり急ぎの案件でしたが、決済まで済んでいます」
「何を言っているんですか」
自分の声がく聞こえた。
「ここは私たちのです」
「登記はご主の単独名義でしたので……」
確かにマンションの名義は達也だった。宅ローンの審査を通しやすくするため、結婚当初そうした。しかし420万円のうち、300万円は私が独代に貯めたからしている。
「私、何も聞いていません」
「そう言われましても、こちらとしては所者であるご主との契約で……」
男性も次第に顔を変えた。
私が赤ん坊を抱いていること。
入院用のさなバッグしか持っていないこと。
そして本当に売却をらなかったらしいこと。
ようやく事のおかしさに気づいたのだろう。
「しい所者の方が夕方には確認に来る予定なんです。申し訳ないんですが、くここにいるのは……」
「くところがないんです」
からた瞬、涙がそうになった。
だが陽菜が泣いている。
私は泣けなかった。
男性は困ったように線を落とした、キッチンカウンターを指した。
「あそこに、ご主が残していった物があります」
何もない部ので、そこにだけい封筒といファイルが置かれていた。
封筒の表には、達也の字で《美緒へ》とかれていた。
には婚届の控えらしきがあった。
夫の欄には達也の署名。
妻の欄には《美緒》。
けれど、それは私の字ではない。
さらに証欄にはの名がかれていた。
《由紀》
《翔》
由紀。
私はその名をらなかった。
次に枚の写真が落ちた。
達也が若い女と顔を寄せっている。女は20代半ほどで、腕を達也の肩へ回し、カメラへ笑っていた。
写真の裏にはい文字。
《やっとで始められるね。由紀》
私の指先がたくなった。
ファイルをく。
に入っていたのは、私名義の座のコピーだった。
結婚から貯め、結婚もパート代やボーナスの部を入れていた座。残は産の点でおよそ860万円あった。
最の残。
《12,416円》
「……何、これ」
数に数回に分けて資がいていた。
私は自分で引きしていない。
陽菜の泣き声がきくなる。
ミルクを作ろうにも、ケトルもない。
哺乳瓶もない。
蔵庫すらない。
私は娘を抱いたまま、何もないへ座り込んだ。
を失った。
夫はいない。
貯もない。
そして、私のらないところで婚届まで作られている。
産のため病院にいた5に、私の活は丸ごと処分されていた。
そのだった。
スマートフォンが震えた。
達也からではない。
のアプリからの自通だった。
《登録メールアドレス変更のおらせ》
変更は、私が陣痛にいたの午1138分。
そしてその直から、きな額の移が始まっていた。
私は画面を見つめた。
達也は衝に逃げたのではない。
私が産でを空けるを待っていた。
最初から準備していたのだ。
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