"「父の31億を狙った泥棒女」と罵られた私。孤独な老人に贈った2180円のラーメンが、巨大金庫の上に供えられていた" 第8話
億千万円の空
「何のだ」
健の声が段くなった。
さくらは、その変化を聞き逃さなかった。31億円の遺言をったとき、彼は机を叩いて鳴った。ところが4億8000万円という数字には、声を抑えた。らない数字への反応ではない。
黒田は黒いファイルをき、最初の枚を弁護士へ渡した。
「御厨産から、KMコンサルティング、都企画、アークサポートの社へ支払われた業務委託費です。の計が約4億8000万円。社とも登記の所に事務所はなく、従業員も確認できません」
「部の専へ仕事を頼むのは普通だ。会社経営をらないがをすな」
健はさくらへ言ったが、黒田は議論の相を変えなかった。
「先、ページ目をご覧ください。請求に記載された業務内容は、物件調査、経営助言、システム保守です。しかし同じ期、それらの業務は別の実企業にも発注され、正規の請求が計されています」
つまり御厨産は、しない仕事へ毎にを払っていた。
続く資料には、支払、振込先、額が覧になっている。毎ぴったり同額ではなく、620万円、735万円、580万円とばらつきがあった。健はその規則さで、定額の正送に見えないよう装っていた。
「社の代表者は、いずれも健氏の学代のです。
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ただし、入の割以が数以内に別座へ移されています」
黒田が次の資料を置いた。
「最終な送先は、健さんが管理する個座つと、美穂さん名義のカード決済座です」
「私の座?」
美穂が夫を見た。
「どういうことよ。あなた、役員報酬から払っているって言ったじゃない」
「黙ってろ。経理の処理を、おに説しても分からない」
「でも、この番号、私のカードよ」
資料には港区の百貨、輸入具、会員制旅会社への支払いが並んでいた。源蔵がを止められていたに、美穂はイタリア製ソファへ280万円、健は腕計へ640万円を支している。
数字だけだった正が、のにつけている物へつながった。
「こんな表、いくらでも作れる。証拠になるとっているのか」
健が類を机へ投げ戻した。
そのとき、応接の扉がノックされた。
「失礼いたします」
入ってきたのは、鏡をかけた50代の女性だった。濃紺のスーツを着て、両で耐類ケースを抱えている。
健の表から、初めてり以のが消えた。
「田所。なぜ、おがここにいる」
「源蔵会から、半に指示を受けていました。万の、原本を黒田先へ渡すようにと」
財務部の田所真紀は、健ではなく弁護士へ名刺を差しした。そのうえで、昨夜健から受けた削除命令について説した。
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「会計サーバーのデータは削除していません。操作権限のある社員は限定されており、削除指示を受けた刻とメールも保しました。こちらが契約原本、請求、振込承認です」
類ケースからされた原本には、健自の決裁印がある。社の請求は式が違うにもかかわらず、印刷に使われた複の管理番号がすべて御厨産本社のものと致していた。
「さらに、部税理士が融関から適法な続きで取得した取引記録があります。黒田先の覧は、それを基に作成されたものです」
弁護士は資料を枚ずつ見比べた。先ほどまでさくらへ向けていた圧な線は消え、今は依頼である健を観察している。
「健さん。社が実際にった業務を示す成果物はありますか」
「あるに決まっている。会社のどこかに保管してある」
「昨夜、その契約データを削除するよう命じた理由は?」
「契約が終わったから理しろと言っただけだ」
「代表者がくなった当の夜に、分だけを指定して?」
健は答えず、の入ったグラスへを伸ばした。だが、指が縁に当たり、グラスが傾いた。こぼれたが資料の端へ広がり、田所がすぐに原本を持ちげる。
美穂はバッグを膝からろし、夫からし距を取った。
「私はらないわ。
健さんから、会社が認めた活費だと聞いていたの」
「おだって契約に署名しただろう!」
「頼まれたからよ。会社のことはあなたが全部やっていたでしょう!」
互いを守るはずの夫婦が、証拠をにして責任を押しつけ始めた。
黒田はファイルを閉じなかった。まだ半分以の付箋が残っている。
「本件は遺留分とは別の問題です。源蔵様の相続財産に対する返還請求の能性に加え、御厨産は独した法として、損害賠償請求と刑事告訴を検討します。どの罪が成するか、起訴されるかは捜査関と裁判所が判断します」
「待て。親子のだぞ。内で処理できる話だ」
「会社のです。社員と取引先のいる法の資産です」
田所が初めて健へ言い返した。
「会は最まで、あなたが自分から帳簿を戻す会を待っていました。昨夜、あなたが選んだのは返還ではなく削除でした」
健は何も答えなかった。
黒田が最に、枚の産登記事項証を机へ置いた。
「なお、おがおまいの港区のマンションについても、確認していただくことがあります」
美穂が反射に類へを伸ばした。
所者の欄に、健の名はなかった。