"「父の31億を狙った泥棒女」と罵られた私。孤独な老人に贈った2180円のラーメンが、巨大金庫の上に供えられていた" 第3話
庫のの段ボール箱
「なぜ、私の名が……」
さくらが尋ねると、黒田はすぐには答えなかった。警察官から内確認の状況を聞き、遺言執者として必な続きをつずつ済ませていく。その態度は慎で、源蔵のを待っていたには見えなかった。
「源蔵様から、万の際の順を預かっていました。このの斎には、私のち会いなしにけてはならない保管物があります」
黒田はそう説し、警察官の承を得たうえで、鞄から古い真鍮の鍵を取りした。さくらに内へ入ってほしいというのも、源蔵本の指示だった。
靴を脱いでがると、廊の気が靴越しに伝わってきた。居にはさな気ストーブがあったが、コンセントは抜かれている。蔵庫のには卵がつと、半分になった根しかなかった。
「源蔵様の宅配弁当は、先から週回に減らされていました」
黒田がい声で言った。
「ご本の希望ですか」
「いいえ。会社の経費を管理する息子さんが、だと業者へ連絡したのです」
さくらはを止めた。源蔵さんには、事を削らなければならないほどおがなかったのではない。誰かに使えるおを止められていたのだ。
廊の奥に、頑丈なの扉があった。、源蔵がラーメンの箱を運び込んだ部だ。
黒田が鍵を差し込む。
広告
錠は度では回らず、い音を度ててれた。
は豪華な隠し部ではなかった。壁際の棚には古い帳簿が隙なく並び、には筒状に巻かれた建築図面が積まれている。机のには、若いころの源蔵と作業着姿の社員たちが写った写真があった。さな会社をちげた当のものらしい。
ただし、部の最奥にある物だけは、古びたに釣りいだった。
さ2メートルい型耐庫。の扉には円形ハンドルと子ロックがあり、へ太いボルトで固定されている。
「これは、御厨産の創業から使われている保管庫です。な権利や原本の部が収められています」
黒田の説を聞きながらも、さくらの線は庫そのものではなく、その側に据えられたさな神棚へ引き寄せられていた。
の神棚の央に、茶い段ボール箱が置かれている。
赤い特売シール。角に残った、さくらが運ぶ途でつけたさなへこみ。違いなくに渡した、あのラーメンの箱だった。
箱は封されていない。御神酒や榊よりもの、番目につく所に載せられている。
「どうして……べなかったんですか」
さくらは神棚へづいた。箱のに、つ折りの便箋が挟まっている。黒田がい袋をつけて取りし、いた。
そこには源蔵の字で、い文章が残されていた。
広告
『最に、私を財産でも厄介者でもなく、ひとりのとして扱ってくれた方から受け取ったもの。空腹より先に、を救っていただいた』
さくらは便箋の文字を最まで読めなかった。界が滲み、箱の赤いシールが揺れた。
「私は、そんなしたことをしていません。たった箱、渡しただけです」
「源蔵様にとっては、値段の問題ではなかったのでしょう」
黒田は机のの写真をに取った。写真の裏には「御厨産 創業初」とかれている。
「御厨源蔵様は、現40棟を超える賃貸物件を管理する御厨産の創業者です。個名義の産と融資産を含めれば、保資産は数億円規模になります」
さくらは神棚から黒田へ線を移した。
「数億……? でも、あの暮らしは」
「約、経営を任せていたひとり息子の健氏が、源蔵様の活用座と会社の支権限を事実管理するようになりました。『齢の父を休ませるため』という名目でしたが、実際に起きたことは逆です」
宅配弁当は減らされ、費を含む活費も絞られた。源蔵が抗議すると、健は周囲へ「父は認症がんでいる」と説した。会社の役員会でも、源蔵の発言力を奪おうとしていた。
「それなら、なぜ警察や裁判所に訴えなかったんですか」
「訴える準備をしていたからです。推測ではなく、逃げのない記録を揃えるために」
黒田が庫へ目を向けた。
「この、源蔵様は私と部の税理士に、会社から消えた資を調べさせていました。斎の帳簿は、その起点です」
庫のには財宝ではなく、息子が最も見られたくない記録が眠っている。
さくらがそう理解したとき、でのタイヤが砂利をく噛む音がした。
続いて玄関戸が激しく揺れた。
「おい、親父がんだって本当か!」
男の鳴り声が、えた全体を震わせた。
「警察だろうが何だろうが関係ない。俺は息子だ。庫をけろ!」