"「父の31億を狙った泥棒女」と罵られた私。孤独な老人に贈った2180円のラーメンが、巨大金庫の上に供えられていた" 第2話
煙の消えた隣
翌も、その次のも、源蔵さんは姿を見せなかった。
ラーメンがあるのだから当然だと、さくらは自分に言い聞かせた。仕事机の横の窓からは隣の根が見える。初は細い煙ががり、夕方には居の気もついていた。
ところが目の朝、煙突から煙がなかった。
午8を過ぎても、戸が閉じたままだった。昼になっても郵便受けの聞は消えず、の夕刊まで差し込まれている。
さくらは翻訳の医療器マニュアルを閉じた。画面には未処理の文章が残っていたが、同じを何度読んでもに入らない。
夫が事故に遭ったも、最初はさな違だった。
毎朝必ず届く「会社に着いた」というメッセージが、そのだけ来なかった。忙しいのだろうとって待ち、昼になってから病院の話を受けた。もっとく気づいていれば何か変わったのか。その答えのない悔は、たっても胸の奥に残っている。
午1、さくらはコートを着て隣へ向かった。
「源蔵さん、です」
呼び鈴を度押し、玄関戸を叩く。返事はない。を澄ましても、古い柱がに鳴る音しか聞こえなかった。
の脇には宅配弁当の保箱が置かれていた。ふたをけると、の昼が封を切られないまま残っている。通常なら夕方までに回収されるはずのものだった。
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さくらはすぐに119番へ話し、独居齢者の否確認を求めた。自分で窓を割ったり、勝に内へ入ったりはしなかった。数分には、以町内会で源蔵さんを担当していた民委員にも連絡した。
救急と消防が到着したのは、それから約12分だった。警察官も遅れてやってきた。分確認を受けたさくらは、最に源蔵さんを見た、装、会話の内容を順番に説した。
消防隊員が裏の窓から入り、内側から玄関をけた。救急隊員が担架を運び込む。さくらはので両を握り、い息を吐きながら待った。
やがて、救急隊員のきがゆっくりになった。
玄関からてきた配の警察官が子を取り、さくらと民委員に向かってをげた。
「残ですが、おくなりになっています。布団ので、眠るような状態でした」
さくらは返事をしようとしたが、声がなかった。代わりに唇を結び、くをげた。
あの箱を渡した夜、源蔵さんは確かに笑っていた。それが最だった。もうし話していれば、体調の変化に気づけたのではないか。箱などではなく、温かい事を緒に取ればよかったのではないか。
「さん」
民委員の女性が、震えるさくらの腕を支えた。
「あなたが悪いわけではありません。、私はお話したんです。
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御厨さんは『久しぶりに、うれしいことがあった』と話していましたよ」
その言葉を聞いた途端、さくらの目から涙が落ちた。
内には争った形跡がなく、玄関も施錠されていた。発見の状況から事件性はいとみられたが、警察は必な確認をめるという。救急隊員がったあと、警察官は寝の机から見つけた枚のカードを持ってきた。
カードには「緊急連絡先」とあり、都内の法律事務所と、黒田修司という名が記されていた。裏面には源蔵さんの直で、「息子ではなく、先に黒田へ連絡すること」とかれている。
「ご族について、何か聞いていますか」
「いいえ。息子さんがいることさえりませんでした」
警察官が法律事務所へ話をかけると、黒田という弁護士は、すぐに向かうと答えたらしい。
が傾き、源蔵さんの遺体が静かに運びされた。さくらはの端にち、が角を曲がって見えなくなるまでをげていた。
約40分、黒いセダンが古いのに止まった。
りてきたのは、濃紺のコートを着た50代半ばの男性だった。縁の鏡をかけ、革の鞄をにしている。彼は警察官に分証と数枚の類を見せ、く説した。
やがて男性はさくらのにった。
「百法律事務所の黒田修司です。御厨源蔵様の顧問弁護士で、遺言執者に指定されています」
黒田はく礼すると、透な証拠袋に入ったい封筒を見せた。寝の枕元に置かれていたという。
表には、乱れのない跡でこう記されていた。
『さくら様へ。私の、黒田先と緒にけてください』