"「父の31億を狙った泥棒女」と罵られた私。孤独な老人に贈った2180円のラーメンが、巨大金庫の上に供えられていた" 第1話
老が棚に戻した袋入りラーメン
レジので、御厨源蔵さんは袋入りのインスタントラーメンを棚へ戻した。
値札には税込398円とある。源蔵さんはあせた銭入れをもう度き、掌のに並べた貨を確かめたが、買い物かごに残したのは豆腐とパン、それにさな牛乳だけだった。
の夕方、川越の古い商にあるスーパーは、仕事帰りの客で混み始めていた。内には特売をらせるるい音楽が流れ、誰も、ひとりの老が398円の商品を諦めたことなど気に留めていない。
しれた凍品売りにいたさくらだけが、その様子を見ていた。
源蔵さんは隣の古い平にむ79歳の男性だった。背はいが、最はをかばうように歩く。になっても同じ紺のジャンパーを着ており、袖はく擦り切れていた。
だからといって、物乞いをするようなではない。むしろに借りを作ることをひどく嫌うだった。
半、さくらのの郵便受けが傾いたときには、古い具箱を抱えて直してくれた。のには、倒れた自転を黙って起こしてくれた。さくらが礼を言うたび、源蔵さんは「隣同士なら当たりですよ」と照れたように笑った。
さくらは声をかけなかった。ここで「買ってあげましょうか」と言えば、源蔵さんはきっと豆腐まで棚へ戻してをてしまう。
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彼女は夫を交通事故でくしてからので、善にも渡し方があることをっていた。っているときほど、骨な同は痛い。助けられた事実より、れなとして見られた記憶のほうがく残ることもある。
源蔵さんが会計を終えてをたあと、さくらは同じ銘柄のラーメンが詰まった30入りの箱をカートへ載せた。
398円の商品を戻したに、いきなり箱ごと渡せば警戒される。それでも、寒さが本格になるに、隣の台所にべ物がある状態にしておきたかった。
自宅へ戻るころには、空から細かなみぞれが落ち始めていた。さくらは箱を玄関に置き、濡れた髪をタオルで拭きながら、渡すための実を考えた。
午6を過ぎると、隣の窓にいかりがともった。さくらはダウンコートを羽織り、両腕で箱を抱えてをた。
源蔵さんのは、所でもひときわ古かった。モルタルの壁には細い亀裂がり、軒のどいは部がれている。玄関脇には灯油のポリタンクが置かれていたが、持ちげるための取っにく埃が積もっていた。
呼び鈴を押すと、しばらくして擦れるような音がづいてきた。
「さん。こんな寒いに、どうしました」
戸をけた源蔵さんの頬は青く、吐く息が玄関の内側でもく見えた。
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のにはの音がしない。
「すみません、ネットで注文する数を違えてしまって。ひとりではべ切れないので、半分、助けてもらえませんか」
さくらは箱の伝票が貼られていた部分をで隠しながら言った。スーパーで買った品だと分かれば、彼は受け取らないかもしれない。
源蔵さんは箱とさくらの顔を交互に見た。
「これは、半分という量ではないでしょう」
「賞期限まで置いておけます。私、同じが続くとすぐ飽きてしまうんです」
苦しい言い訳だった。源蔵さんはすぐに見抜いたらしく、皺のい目元をわずかに緩めた。それでも箱へ伸ばしたは、途で止まった。
「私はあなたに、返せるものがありません」
「もういただいています。郵便受けも、自転も直してもらいました。それに……」
さくらは度言葉を切り、自分のの暗い窓を振り返った。
「夫がくなってから、夕方に誰かと挨拶するだけでも救われるがありました。源蔵さんは、何も聞かずに普通に話してくれたでしょう。それで分です」
源蔵さんの喉がさくいた。彼は俯き、箱の底へ両を回した。受け取ったみで腕が沈んだため、さくらは慌てて反対側を支えた。
「こんな寄りに、どうしてそこまでしてくれるんですか」
「私も、ひとりで事ができなかった期があったからです」
源蔵さんはそれ以尋ねなかった。代わりに、箱を抱えたままくをげた。
「ありがとうございます。この温かさは、忘れません」
「げさですよ。特売のラーメンですから」
さくらが笑うと、源蔵さんもようやく笑った。ただ、その目には涙がたまっていた。
そうな箱を玄関のまで運ぶのを伝い、さくらは自宅へ戻った。を閉める直、何気なく振り返る。
磨りガラス越しに、源蔵さんのが見えた。
台所は玄関からのはずなのに、彼は箱を抱え、廊の番奥へ向かっていた。そこには以、の修理を伝った業者でさえ入れなかった、いつも鍵のかかった部がある。
やがて属の錠がれる、い音がした。