"夫に4千円を頼んだら、4千万円振り込まれた" 第10話
「よかった……本当によかった……!」
涙が次から次へと溢れし、止まらなかった。
「ただし」医師は優しく、しかし釘を刺すように付け加えた。「これで臓が代の頃に戻ったわけではありません。酷使された筋には相応のダメージが残っています。退院も無理な力仕事は避け、穏やかに、切に過ごさせてあげてくださいね」
「はい……はい! 私たちが、絶対に守ります!」
私は何度も、何度もくをげ続けた。
術からが過ぎ、桜商のは再び鮮やかな黄に染まっていた。
母は驚くほどの回復を見せ、今では週に回、所の齢者サロンへ散歩にかけられるまでになっていた。激しい運こそ禁じられているものの、顔は見違えるように良くなり、かつての活な笑顔を取り戻していた。
曜、私たちは母のむ町のアパートを訪れ、久しぶりにで夕を囲んでいた。
卓の央には、母の得料理である里芋と鶏肉の筑煮、脂の乗った塩鮭、そして豆腐とわかめの噌汁が並んでいる。
「やっぱり、お母さんの筑煮は本だな」
勇が箸をめ、里芋を頬張って目を細める。
「お世辞でも嬉しいねぇ。勇君がたくさんべてくれるから、作り甲斐があるってもんさ」
母は嬉しそうに目を細めていたが、ふといしたようにちがり、茶箪笥の引きしをけた。
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「そうだ、勇君。今あんたたちを呼んだのはね、これを渡したかったからなんだよ」
母が卓に戻り、勇のにコトンと置いたのは、し古びた茶いポチ袋だった。
「何ですか、これ?」
「けてごらん」
促され、勇が封をけると、からつ折りにされた千円札が枚、滑りしてきた。札ではなく、所のスーパーのお釣りで集めたような、し皺のある千円札だった。
「……千円?」
勇は目を丸くし、母と私を交互に見つめた。
「お母さん、これ……」
「診察代だよ」母は腕を組み、当然といった顔で言い放った。「、あんたが加奈に貸してくれた千円。きっちり利息なしで返しとくよ」
私と勇は顔を見わせ、わず吹きしてしまった。
「お母さん、何言ってるんですか! 俺があの振り込んだのは千万円ですよ!?」
「だから何だい?」母は悪びれる様子もなくを鳴らした。「加奈があんたに頼んだのは『千円貸して』だったんだろ? 残りの千百万千円は、あんたたち夫婦の将来と活のためにあんたが置いたじゃないか。私が借りた筋いのじゃない。私が返すべきなのは、あの加奈が借りた千円きっかりさ」
「受け取れませんよ、そんなの!」
「いいから受け取りな! これは私のけじめなんだから!」
押し問答を繰り返す母と夫の姿は、まるで本物の母と息子のようだった。
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頑固で、器用で、どこまでもの痛みに敏な。
「もう、ともやめてよ」
私が笑いながら割って入ると、母は勇のから引にポチ袋を奪い取り、私のバッグのファスナーをけてにねじ込んだ。
「じゃあ、加奈。あんたが財布に入れときな。そしてね……よーく覚えておきなさい」
母の表が、ふっと真剣な母親の顔に戻った。
「度と、残が千円になるまでで泣くんじゃないよ。何かあったら、円でも百円でも、すぐにこのに相談するんだ。族ってのはね、おがないに緒にをげるためにあるんじゃない。困ったに、緒に半分ずつ背負うためにあるんだからね」
母の言葉が、私の胸の奥くまで温かく染み渡っていった。
「うん……分かってる。もう絶対に、で抱え込んだりしないよ」
実をると、夜の澄んだ空気にの気配が濃く漂っていた。
商の灯が、舗装のにのいを並んで落としている。私の鞄のには、母がねじ込んだ枚の千円札が、まるでお守りのように収まっていた。
千円と、千万円。
数字のでは万倍のきがある。しかし、あの、絶望の淵にいた私を救ったのは、桁数のさではなかった。
「おがない」と切り捨てることなく、私がごと押し潰されそうになっていた恐怖を、まるごと両で受け止めてくれた夫がいたこと。
そして、その夫のの根底には、に母が差しした杯のまかないと、万円の恩義がきていたこと。