"夫に4千円を頼んだら、4千万円振り込まれた" 第9話
あのまま千万円が座に入ってたら、私、おの化け物にみ込まれて狂ってたとう」
勇はし照れくさそうに笑い、私のコートのポケットにを差し入れた。
「加奈のパート先……医療用品だっけか。に相談して、シフトを週に減らしてもらえよ」
「えっ……でも、私の料が減っちゃうよ?」
「そのための百万円だろ。加奈がお母さんの通院に付き添って、疲れたらで緒に昼寝して、減った料の穴埋めをするために置いてあるだ。……いいか、加奈。おを理由に、切なを諦めるな」
夫の言葉が、え切っていた私のにじんわりと染み渡っていった。
翌、私はパート先の医療用品へ向き、に母の病状を正直に打ちけた。
「お母さん、変なね……。今まで加奈さんがおを支えてくれたんだから、恩返しさせてよ。週の勤務で席は残しておくから、お母さんのそばにいてあげて」
は嫌な顔つせず、私の背を押してくれた。かつての私なら、収入が減る恐怖から絶対に言いせなかった相談だった。勇が差ししてくれた「の余裕」が、周囲の善を素直に受け取る勇気を私に与えてくれていた。
季節は巡り、初旬の朝を迎えていた。
循環器病センターの階、術待のいプラスチックベンチに、私と勇は並んで腰をろしていた。
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母の血管の太さ、化の程度を測る事スクリーニングは奇跡にすべての基準をクリアし、本午より、経カテーテル脈弁留置術(TAVI)が執刀されることとなったのだ。
待の正面、分い自ドアのにある『術』を示す赤いランプが、静かに点灯していた。
「痛くないといいけど……」
私の掠れた呟きに、勇が温かい缶コーヒーを渡してくれた。
「丈夫だよ。先も言ってたろ、胸をきくくわけじゃないから、体への負担は昔の術の分の以だって」
「うん……分かってる。でも、やっぱり怖くて」
私は缶コーヒーの両端を握りしめ、赤いランプを凝した。
ここから先は、医師の技術と、母自のきようとする力に委ねるしかない。どんなも、どんな誓いも、この扉の向こう側へは届かない。
「……ねえ、勇」
「ん?」
「約束してほしいことがあるの」
私は缶コーヒーを膝のに置き、隣に座る夫の横顔をまっすぐに見つめた。
「これからも、もし何かきなことがあったら……失敗するかもしれない話でも、恥ずかしい話でも、絶対にで抱え込まないで。私を傷つけないための嘘でも、隠し事は嫌。で悩んで、で傷つきたい」
勇は缶コーヒーを見つめたまま、しばらく沈黙していたが、やがてゆっくりとこちらを向き、く頷いた。
「分かった。
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……もう絶対に、格好つけたりしない。全部話すよ」
「私も約束する。残が千円になるまでしたりしない。円でも百円でもりなくなったら、けなくてもすぐに勇に言う。『助けて』って言うよ」
「ああ。絶対に言えよ。またあんな消え入りそうな声で話されたら、俺の寿命が縮む」
勇が器用な笑みを浮かべ、私のを握り返した。
無骨で、節くれって、油の匂いが染み付いた夫の。、空腹に耐えかねてうどんをすすり、母のまかないに涙を流した青が、いま私の隣で、私のを支える揺るぎない黒柱としてしている。
私たちは千万円という嵐のような数字の洗礼を受け、互いのさと傲さを剥きしにしてぶつかりい、そしてようやく、対等な「夫婦」としてのスタートラインにったのだ。
午過ぎ。
カチリと乾いた子音が響き、の赤いランプが消灯した。
自ドアがき、マスクをした主治医が、穏やかな表をたたえて歩みてきた。
「加奈さん、勇さん。お待たせしました」
私はね起きるようにちがり、わず勇の腕をく掴んだ。
「術は、極めて順調に終しましたよ。しい体弁がしっかりと留置され、逆流も圧迫も切ありません。臓のの狭は完全に解除されました」
その瞬、私の膝からすっと力が抜け、そのに崩れ落ちそうになった。
勇が素く腰を抱き止め、私の体を支えてくれた。