"夫に4千円を頼んだら、4千万円振り込まれた" 第5話
「……加奈と会う、俺は隣町にあった従業員だけのさな技術ベンチャーで働いていたんだ」
類の程を、勇の骨太な指先が指し示した。そこには『譲渡対象株式:旧・ナノテック精株式会社 保株数:百株』と記載されていた。
「そこの社は、作械の超精密ベアリングに関する画期な特許技術を持っていた。でも、経営はド素でな。会社にはいつも現がなくて、俺たち若い員に料を満に払えなかったんだ。残業代の代わりにって、社が『いつかこの会社がきくなったら分けだ』と言って配っていたのが、この未公株だった」
「料の代わりに……切れをもらっていたの?」
「ああ。当は本当にただの切れだったよ。その、会社は資繰りにき詰まって事実倒産し、俺は今の町に転職した。でも、社が持っていた特許だけは、管財ので細々と維持され続けていたんだ」
勇は類の次の枚をめくった。そこには、買収の経緯と買取価格の算定根拠が克に記されていた。
「今に入って、その古い特許が次世代気自の基幹部品に欠な技術だってことが判してな。あのメーカーが特許ごと会社を数億円で丸ごと買い取ることになった。初期の技術提供者として未公株を保持していた俺のところにも、ヶから買収監査の連絡が来ていたんだ」
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指し示された最終精算欄。
『買取総額:52,000,000円』 『譲渡所得税および民税源泉徴収額:10,560,000円』 『差引取振込額:41,440,000円』
「今、その買収資の決済が完して、税を引かれた残額が俺の個座に着した。犯罪のでも、ろ暗いでもない。俺が代の頃、油まみれになって働いた対価が、のを経て現になっただけだ」
類の文字をなぞる私の界が、刻みに揺れた。
確かに、法に完全に精算された正当な財産だった。夫は犯罪者でもなければ、の取引にを染めたわけでもなかった。その事実に、肺の空気がすべて抜けるような堵が胸を満たした。
だが——その堵のすぐろから、氷のようにたい疑が湧きがってきた。
「……ヶ?」
私の声は、自分でも驚くほどくくなっていた。
「ヶから、この続きがんでたの?」
「……ああ」勇の線がわずかに揺れた。
「ヶって……お母さんが臓の発作で初めて倒れて、私が『パートのシフトを増やしておを稼がなきゃ追いつかない』って、泣きながら相談しただよね?」
狭い台所の空気が、瞬にして張り詰めた。
「あの、勇は何て言った? 『無理するな、節約して乗り切ろう』って……そう言ったよね? 私は擦り切れた靴を買い換えるのもして、百円の納豆と円のもやしで毎の献を計算して、夜も眠れずに計簿とにらめっこしてた。
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なのに……あなたはその、千万円が入るかもしれない話を、言も教えてくれなかったの?」
りではなかった。胸の奥を鋭利な刃物で抉られるような、い孤独としみだった。
「どうして……どうして黙ってたの? 私、そんなに信用されてなかった? 夫婦なのに……どうしてで抱え込んでたのよ!」
私の叫びに、勇は反論しなかった。ただ固く拳を握りしめ、痛みに耐えるように線を伏せた。
そのだった。
「夫婦喧嘩なら、にしておくれよ」
背の襖が静かにき、柱に体を預けた母が、青い顔でっていた。
「お母さん……起きてきちゃダメ!」
私が慌てて駆け寄ろうとした、母の線がテーブルのの類、そして勇の顔へと向けられた。
その瞳を見た瞬、私は息を呑んだ。
母の顔には、驚きも、狼狽も、恐怖もなかった。千万円という文学な数字をにして、母はまるで『最初から結末をっていた』かのように、く、静かな笑みを元に浮かべていたのだ。
「……やっぱり、本当になったんだね、勇君」
母のから漏れたのは、信じがたいほど穏やかで、親密な響きを持った言葉だった。
「お母さん……? 何を……言ってるの?」
私の問いかけを遮るように、母はゆっくりと歩み寄り、勇の丸まった背に、骨ばった温かいをそっと置いた。
「だよ、加奈。……この子が、あんたの旦になるずっと。