"赤提灯から始まる逆転" 第5話
通話が方に切れた。 ベンチからちがり、何気なく公園の入りに線をらせる。 黒いセダンが台、エンジンをかけたまままっており、部座席のスモークガラスの奥から、たい線が私を捉えているのが分かった。
警察も頼れない。社内のも質に取られた。法続きを待つすらすでに残されていない。 面楚。完全なチェックメイトだった。 私は元のスマートフォンを握りしめ、や汗が背筋を伝い落ちるのをじていた。 このまま豪田の元へ赴き、すべてのデータを引き渡して命乞いをするしかないのか。だが、秘密鍵を渡せば、用済みとなった私と佐藤が無事に解放される保証などどこにもない。
絶体絶命のが、私の元からいがってきたそのだった。 再び、私のスマートフォンが震えた。 今度は非通ではない。見覚えのない、京の局番から始まる固定話の番号だった。
震える指で通話ボタンを押す。
「……もしもし」
『おお、鈴鹿君か。昨は本当に世話になったな』
を疑った。 受話器から聞こえてきたのは、昨夜、居酒で千円札数枚をて替えてやった、あの赤提灯の老の呑気な声だった。
「あんた……昨の、居酒の……? どうしてこの番号を?」
『なに、領収の宛名と、元の箱に貼ってあった宅配便の伝票番号を見せてもらってな。
広告
調べさせるのは造作もないことじゃ』
ただの無銭の老が、個の携帯話番号を半で特定できるはずがない。
『鈴鹿君、今、あんたの周りには黒いがまっておるじゃろう。……そのままくな。秒に、そいつらのに別のが割り込む。あんたは迷わず、そのの部座席にび乗れ』
「な、何を言っているんですか!? あんた体、何者なんだ——」
言葉を遮るように、激しいタイヤのスキール音が公園のの通りに響き渡った。 型の級サルーンが、黒いセダンのに猛スピードで割り込み、そのを完全に塞ぐように急したのだ。 サルーンの部ドアがねがるようにいた。
『く乗れ、鈴鹿君! 命が惜しければな!』
受話器の向こうの老の声が、これまでの温な響きを変させ、響きのような絶対な威厳を帯びて轟いた。
何が起きているのかを考える暇はなかった。 私はノートパソコンの入った鞄を胸に抱き締め、ベンチを蹴って全力で疾した。 黒いセダンから屈な男たちがびしてくるのが界の端に見えたが、級サルーンからりった漆黒のスーツ姿の男たち名が、即座にそのへち塞がり、無言のまま圧倒な威圧で男たちをねじ伏せた。
「乗ってください、鈴鹿様!」
運転席の男が叫ぶと同に、私はサルーンの部座席へ転がり込んだ。
広告
ドアがな音をてて閉まり、輪が煙をげてアスファルトを噛む。背に烈なGがかかり、は瞬くに追を引きして幹線へと流していった。
乱れた呼吸をえながら、私は恐る恐る隣の座席へと線を向けた。 そこに座っていたのは、昨夜の擦り切れたジャンパー姿とは似ても似つかない、完璧に仕てられた最級のオーダースーツにを包んだ、あの老だった。
老はの装飾が施された杖に両をね、窓のを流れる層ビル群を静かに眺めていた。その横顔には、居酒で見せた柔な好々爺の面はなく、数万を従える巨のみが放つ、を呑むような徹な覇気が満ちていた。
「……あんた、本当に昨の……?」
「ふふ、驚かせてすまなかったな、鈴鹿君」
老はゆっくりと首を巡らせ、私に向かってく微笑んだ。 内ポケットから取りされた枚の名刺が、漆塗りのアームレストのに滑りされた。 箔で刻まれたその社名と肩きを目にした瞬、私の息が完全に止まった。
『都ホールディングス株式会社 最顧問・創業者 条 剛蔵』
都ホールディングス。 私が勤めていた子会社など、爪の先ほどの規模に過ぎない。商数兆円を誇り、国内に数百のグループ企業を抱える、本屈指の超巨コングロマリットの頂点に君臨する男——それが、昨夜、千百円を払えずに若い員に鳴られていた老の正体だったのだ。